列車アクション2本 ブレット・トレイン & スノーピアサー

■ブレット・トレイン

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ストーリー:レディバグ(ブラッド・ピット)は裏社会の何でも屋。京都行きの新幹線に乗車した。スーツケースを盗んで次の駅で降りるだけの簡単なお仕事だ。スーツケースはすぐに見つかった。ところが降りようとした彼の前に不運にもメキシカンの殺し屋が現れる。降り損ねたレディバグの不運は続き、殺し屋だらけの新幹線で西へと爆進する....

原作は伊坂幸太郎の『マリアビートル』。日本が舞台で全員日本人の物語をアレンジしてほぼ欧米人キャストにした。昨今は批判のネタになるけど、正直そこはあまり気にならなかった。原作自体、何か強いメッセージを持ったものじゃない。入り組んだ敵味方と、アクションと、戯画化された登場人物と、味付けとして入る衒学的な長セリフ…..タランティーノフォロワーの文学化そのものだ。面白さはゲーム的な展開の方で、日本の思想と欧米文明を並立させて描いた遠藤周作の原作をマーチン・スコセッシが映像化する『沈黙』とかとは違うのだ。

原作では、主人公〈レディバグ〉は狂言回し感もあり、最終的に印象強いのは映画でいう〈エルダー〉と〈プリンス〉だ。入り組んだ敵味方も若干苦し紛れの配置がある。ラストはさらっと終わる。映画では殺し屋たちの動機や理由をラスボス的人物に集約させて物語の軸を通し、クライマックスをベタな頂上対決に変えた。謎解き的な部分はむしろ原作より物語の構造がはっきりしたとも言える。

久しぶりにコメディに出演したブラピは、自分の依存症セラピー歴もネタにした不運キャラ。終始眉毛を八の字型に下げつつスタントなしで格闘アクションをこなす。他の殺し屋たちも記号的な衣装を着て、アニメのキャラクターデザインのようだ。人格を必要以上に掘り下げないで、誰もキャラクター設定どおりの振る舞いから外れることはない。

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(C)Sony Pictures Digital Productions Inc. via imdb

エンタメとして見れば、主要キャストはそれぞれ絵力があって魅力的で、車内デザインも街の風景もリアルより華やかで、アクションもバリエーションがあって楽しめた。日本描写は同じチームの『KATE』の延長。ネオンぽい光がアクセントに入る画面はいつもの87elevenらしい。ラスボスはクレジット無しだが『シェイプ・オブ・ウォーター』や『ノクターナル・アニマルズ』でもお馴染みの恐めの顔を生かしている。ただし漫画っぽさは主要キャラクターの中でもさらに高い。

殺し屋コンビ〈レモン〉と〈タンジェリン〉の機関車トーマスネタはもちろん原作からの持ち越し。思うにアメリカの子供にとってはトーマスはあんまり馴染みがないから、無理やりイギリス生まれ設定にしたのかもしれない。だからかアメリカ人が演じる〈レモン〉のイギリス風アクセントはイギリス人からするとかなりきついみたいだ。役者さんすごく雰囲気いいけどね。

ちょっとげんなりしたのはクライマックスのアレだ。列車アクションのクライマックスといえば確かにアレになる。『スノーピアサー』と同じだ。乗り物系映画は、一方向に爆進する乗り物がストーリーに強い枠をはめるから、何かの方法で最終的にベクトルを変えないと物語が気持ち良く完結しない。それはわかる。でも本作のアレは例によってCG味丸出しで、しかもシーンに合うように周囲の環境を作ってしまっているから嘘くささも急上昇だ。本来このシーンは重量感こそ肝だと思うんだが、あらゆる意味で軽いのだ。

そんなわけで、車内のあれこれは楽しめたが、列車周りの設定とか風景とかをもう少しリアル方向に寄せたほうが(「さすがにこれはないわー」とならない程度に)、スリリングで締りが出たんじゃないかな。

 

 


 

■スノーピアサー

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ストーリー:温暖化対策で散布された物質のせいで世界中が凍結し、生物は死に絶えた。唯一生き残ったのは永久機関の動力を持ち世界中を回り続ける巨大列車とその乗客だ。列車の前方には優雅に暮らす階級たちがいる。最後部には貧民たちが押し込められている。反乱の準備をしていた貧民グループのカーティス(クリス・エヴァンス)たちはついに決起、じりじりと前方に進軍する…..

2014年公開、ポン・ジュノ監督。列車アクションつながりで見た。こちらはBD(フレンチコミック)原作。世界観の作り込みでは本作のほうが圧倒的に力が入っている。まがりなりにもSFだからね。列車は閉鎖系( 外部からの出入りのない)エコシステムで、水だけは周囲に嫌というほどある雪や氷から得ていて、その他のエネルギーは内部で永遠に取り込めるようになっているらしい….けれど映画では特に説明はない。

地球=世界のアナロジーに見えるし、そういう解釈や考察がいくらでもある。豊かな人々(先進国)と貧民(発展途上国)と。でも貧民は収奪されているわけでもない。何か労働をしているのかいないのか、食料は(途中で正体がわかるけれど)無償で提供されている。上層階級は豪華クルーズの客と一緒で、サービススタッフに全てしてもらっている感じで、「社会」がそこにあるように見えないのだ。

それよりは限定された世界を自分の思想のままに統御したい(神になりたい)誰かの姿と、その中であがく主人公を描くタイプに近い。『トゥルーマン・ショー』(本作でも出てるエド・ハリスが同じような役だ)や『ダーク・シティー』的なね。

鉄道アクション味はそれほどない。軌道幅もだいぶ広そうで車内の狭い感じがあまりしないし、ノンストップの列車で外との関係が希薄だ。あと鉄道システムって、列車と線路とどちらも機能して初めて動く両輪みたいなものだと思うんだけど、この物語に「保線」の概念はない。要するに僕たちの鉄道体験・知識にシンクロする部分があまりないのだ。

全般に、ダークファンタジーとしては楽しめた。はっとするアイディアもある。時代のせいか予算のせいかCGクオリティが今ひとつで、列車の重量感やインフラ的存在感が弱いのが少々つらかった。Netflix版のドラマはどんな感じなんだろう。

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