DUNE 砂の惑星 PART2

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ストーリー:惑星アラキス(デューン)を統治していたアトレイデス家はハルコンネン家の襲撃で崩壊、生き残ったポール(ティモシー・シャラメ)は母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)と、砂漠に生きる民フレメンに合流する。ポールはチャニ(ゼンデイヤ)たちフレメンに戦士として認められ、ジェシカは宗教的リーダーの後継者になる。資源を巡って惑星を荒らすハルコンネン家とフレメンの戦いは激化し、いつしかフレメンのリーダーとなったポールは.....

前作から3年、先行公開のIMAX上映を見に行った。だれでも言うとおり、IMAXで見るのがおすすめだ。間違いない。『2001年宇宙の旅』なみに、何十年後にも参照される映像美術のクラシックを作りに来てる映画だからだ。前作の「圧倒的に巨大な何か」を見るスペクタクルは今作も健在。アクションやスターは他の作品でも見られるけれど、巨大な何かを巨大なスクリーンで見る感じが、抽象的で重量感がある音響系のサウンドとあいまって、そうそう他の映画ではない。

建物や宇宙船、巨大生物サンドワーム....「巨大な何か」ファンはもちろん満足できるし、さらに見せどころの幅が広がっている。戦闘シーンが多くてアクションのバリエーションも豊富だ。砂漠シーンはメインビジュアル通りのブラッドオレンジ的な色合いで、砂漠の民フレメンは砂漠の風景と一体の幻想的な絵になる。

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(c)2024 Warner Bros.  via IGN

敵のハルコンネンは巨漢のボスが常に空中浮遊して、そのイメージか巨大浮遊物で攻めてきたり、兵士が反重力装置で優雅に崖を登って行ったりする。それからハルコンネンの首都の巨大建造物。ナチやイタリアやソビエト独裁国家時代の、未来派っぽくもある巨大建築をモノクローム画面で見せる。黒づくめでスキンヘッドのハルコンネンピープルのアンドロイド的な雰囲気が低温の画面とあう。

とにかく他の「映像美」系大作と比べて端正なファインアート的な画面が多いのだ。これに匹敵するのは例えば『燃ゆる女の肖像』とかだろう。あれは古典絵画が参照元だった。本作の引用元は色々思い浮かぶ。映画でいえば『アラビアのロレンス』のイメージはところどころで感じるだろう。フレメンの奇襲シーンはどこかで見たことがあると思ったら大友克洋の1980年代の漫画。さらにそのオリジナルがどこかにあるのかもしれない。

(c)大友克洋 双葉社

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ストーリーは映像ほどには入り込めなかった。古典のSF名作だから翻案するにも限度がある。お話的には「白人酋長もの」っぽさもある。欧米映画によくある、主人公(欧米系)が非西欧文明の中に単身で入ると、そこのボスに見込まれたり、救世主的なポジションになって彼らを率いて立ち上がったりする物語だ。砂漠の民フレメンは明白にアラビックな雰囲気をまとっていて、白人ポールとジェシカをいつの間にか伝説の予言にあった救世主に当てはめてしまう。

ただ、その辺り、実は慎重にトーンをずらしてある。2人はその立場にいることに自覚的で、特にジェシカはそれを利用してポジションを獲得していくのだ。ポールはヒーローのようで(映画的には十分ヒーローだけど)長年の計画の果てに周到に生み出されたコマでしかない部分もある。だから自分がリーダーになると悲劇しか待っていないことが分かっていても「予言」通りに振る舞うしかないのだ。

そんな2人も、砂漠で戦う知恵を受け継ぐフレメンのリーダーなのに無邪気に救世主を受け入れてしまうスティルガー(ハピエル・バルデム)も、それ以外の敵役も帝国の皇帝も裏で支配する秘密結社のリーダーも.....実はだれもキャラクターとしての魅力を最大化しようとしていない。そこがむしろ、本作が子供じみた英雄譚にならない理由かもしれない。

あと、これも物語通りで仕方ないけれど、ポールとチャニのラブストーリーも、潤いを失い切った角質層のような僕のマインドには染み込まなかった。美しい2人のアップは一方で大量の観客を呼んでいるだろう。だけどこれが目当てのお客さんは無理にIMAXの超巨大画面で巨大顔を何度も見る必要はない。とはいえここもちゃんと原作からずらしてあって、チャニだけはポールを無批判に救世主として崇めない、自立した存在になっていくのだ。

砂漠。モロッコの砂漠っぽい景色は少し眺めたけれど、映画にあるみたいな砂丘と岩山だけのほとんど抽象的な風景の中に立つとまた独特な気分だろう(とはいっても僕たちが行けるのは商売っ気満々の観光ツアーしかないけど)。この風景に想像力を広げた砂漠+SFの世界観。『スターウォーズ』『マッドマックス』漫画で言うとメビウスの『B砂漠の40日間』『風の谷のナウシカ』....他に新しい世代の名作も色々あるだろう。その源流に近い『デューン』確かに元祖にふさわしい。

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