ブリット


<予告編>
ストーリー:サンフランシスコの刑事ブリット(スティーブ・マックィーン)はある議員(ロバート・ボーン)から司法取引をした証人の警護を命じられる。ところがホテルが襲撃されて、証人も若手刑事も重傷を負う。プロの殺し屋は病院に侵入し、証人殺害に失敗すると、こんどはブリットを尾行する。それはブリットのしかけたトラップで、ブリットが乗るムスタングに追い詰められる殺し屋たちのダッジはSFの街中で強烈なカーチェイスを展開する。事件のプロット自体がなんだかおかしいと感じはじめたブリットは証人の足あとをたどる…..

カーアクションの古典。映画の中でアクションの見せ場は2つあり、1つはカーチェイス、2つめは生身の、銃を持った人間とのチェイス。物語的には2つ目がクライマックスで、空港から脱出しようとする犯人を土壇場で刑事が追いかける。『アルゴ』みたいな、ゲートを通って機内に入ってしまったら….的はらはらがちゃんとある。でも見せ場的には1つめのほうがダイナミックだし、たぶんよく知られてる。だいたいで画像検索してみなさいな。ほとんど車しか出てきませんし。
刑事ブリットが乗るのは68年型のフォード・マスタングGT。ヒットマンたちが乗るのは68年型ダッジ・チャージャー。超売れ線のマスタングとレースイメージも強いチャージャー。可動式ライトで「目」を隠している黒塗りのチャージャーは悪役顔にぴったりだ。マスタングは丸目で主役っぽい。フォード社のこんなコメントもある。当時はまだ映画の舞台になることが少なかったサンフランシスコ市が協力的だったおかげで、日曜日にけっこうな範囲の道路を封鎖して撮影できたそうだ。ちなみにこれ、最近SFロケで撮ったカーアクションフィルムだ。

このカーアクションがおもしろいのは、逃げるダッジがSFの急坂を駆け下りながら道路の凹凸でジャンプして、とことこ走っている旧型フォルクスワーゲンを追い越す。豪快に追いかけるマスタングも抜いていく。暴走する2台のマッスルカー、排気量6000cc以上、300HPを余裕で超える車のわきでとことこ走るビートルはお人好しのおじさんみたいなコメディリリーフ役だ。ところがこのビートルが何度も登場するのだ。暴走する2台におなじようすで追い越される。一見そういうギャグだけど、じつは全然違う。ようするに同じシーンを何度も使っているのだ。
カーチェイスのシーンはとにかく力が入っている。主演スティーブ・マックイーンには当時最高峰だったスタントドライバーがついているけれど、本人もけっこう自分で運転する。顔が見えやすいように窓際に顔を寄せて走ったそうだ。敵役のドライバーもカメラに写っている本人。最高150km以上でチェイスした。後半で車にまきこまれて転倒したバイクが路上をすべる。このスタントライダーはマックイーンの前の作品『大脱走』でバイクスタントを担当したライダーだ。このブログだと『バニシング・ポイント』『ザ・ドライバー』、それにオマージュをささげた『デス・プルーフ』『ドライヴ』…アメ車っぽいおおらかな車が暴走するカーチェイスの映画たちだけど、本作もまちがいなく新しい世代に参照されるクラシックだ。
それだけに、なんでビートルのシーンとそこから直交する広い通りへのコーナーリングシーンをはっきりわかるくらい何度も使い回してるのか不思議だった。