殺人狂時代


<予告編>
ストーリー:ナチの残党に殺しを依頼された秘密組織のボス溝呂木(天本英世)。そのターゲットとなった一人が大学講師の桔梗(仲代達矢)だ。ところが彼は簡単にはやられない。なぜか接近してきた女性記者啓子(団令子)と車泥棒ビルと、次々襲ってくる殺し屋を撃破してしまう。さえない文化系だったはずの桔梗は、拉致された啓子を追って敵の核心部にせまる。

1967年東宝から公開。岡本喜八監督の無国籍・スタイリッシュ・ちょいシュール・ピカレスクロマンだ。なんで運営できてるのかわからない悪の秘密組織とか、ナチの残党が財宝を追ってとか、少年時代に秘密の…とか、まあ荒唐無稽といえばそうなんだけど、見る分にノイズになってしまうほど幼稚でもない。むずかしく考えさせる必要もない、ほどほどのさじ加減だ。当時流行っていた日活無国籍アクションの脚本を書いていた山崎忠昭がこの映画の脚本も書いている。ちなみに彼はその後ルパン三世(シリーズ2)にもかかわっているのだ。

だからっていうわけじゃないけれど、ルパン三世ワイルド7も、この辺りの空気がまだまだただよっている中でできていたんだとよくわかる。少年向けとはいえね。ドライな感じでばたばた人が死んでいくところもそれらしい。主人公が殺しているのだ。彼はまったく悩まない。かといって固い決意で決行するわけでもない。単に敵だから殺す。ま、初期ルパンのあの感じだよね。あれが好きならほぼ外れなしでわりと楽しめる。シンプルなストーリーで、時代背景もそんなに関係ないし、テンポも早い。「昔の映画」的構えもいらない一作だ。


ふるくささを感じないのは映像がおおきい。徹底して当時の生活感をにじませない。主人公の桔梗はぼろいシトロエン2CVでとことこ走る。そのあともメルセデスだの外車を乗りつぐし、舞台になるセットも「ニコラス」とか「シシリア」とか60年代のイタリアンぽいレストランだったり、ハイパーモダンなバーだったり、富士山麓のリゾートホテルだったり、御殿場の自衛隊演習地だったり。しめは敵組織の拠点の精神病院だ。リアリティからは遠く離れて「悪の組織」感を思いきり自由にイメージした真っ白な空間だ。あと爆破シーンもけっこうな迫力。効果チームは、爆風が下から上へじゃなく水平方向に走るようにして緊迫感を出したそうだ。
仲代達矢がかなりの格好よさだ。コメディアクションのノリで演じていて、序盤はマンガ的にダメ男ふうメイク。役柄から妙にほわほわしたしゃべりなんだけど、だんだんトーンを変えながら見た目は一気にスタイリッシュな殺し屋風になり、クールなヒーローをやり切る。敵の殺し屋たちも設定重視・必殺技重視のマンガ的な役なので、変に掘り下げない仲代のキャラが濃い顔によくにあっている。あと、やっぱり体つきが大人の男なんだよね。わけありヒロインの団令子はいい感じにセクシーシーンを見せて、きれいになりすぎない(もちろん苦労人タイプでもない)キャラが大人の映画向きでいい。敵ボスのマッドサイエンティスト系、溝呂木の天本英世。あやしいドイツ語がどの程度ちゃんと話せてるのかはわからないけれど、とりあえずこの人は許せてしまう何かがある。

この映画の弱点があるとするとアクションだ。いや、どうだろうな。弱点といってはアレか。役者の肉体頼みで、スピード感あふれるアクションを見せようとするシーンがけっこうあるのだ。それなりにはみなさん動けてる。でも残念だけどソニー千葉じゃないから。振り付けがいまいち甘いのか決めポーズにしまりがないときがあるし、撮り方でごまかしきれてないところもある。クライマックスの仲代と天本のナイフファイトも、コブラ風のアイディアはともかく、やっぱり見せ方がすこし残念な感じだ。
この映画、完成したのに上映されずに塩漬けになり、やっと翌年やる気のない感じで公開されて記録的な不入りを達成したという。絵もスタイリッシュだしそれなりに役者もそろえたのに何でだろう。運不運ってあるね。