殺しの烙印


<予告編>
ストーリー:殺し屋の世界にもランキングがあった。No.3の花田五郎(宍戸錠)が主人公。彼はある男を護送したり、だれかを殺したり、襲われたりいそがしい。妻(小川万里子)がいつつも要所でなぞめいたエキゾチック美女、美沙子(真理アンヌ)にひきづられる五郎。最後は凄腕の殺し屋との対決になる。

『殺人狂時代』とジャンルとしてはほぼ一緒だ。こっちは無国籍アクションの本家、日活から1967年公開。鈴木清順監督。殺しあいについての倫理的問題はひとまず置いといてひたすらスタイリッシュに殺し屋たちが対決するのは『殺人狂時代』と同じ。ファム・ファタール風味のヒロインも共通だ。物語には殺し屋と、依頼人と、ターゲットくらいしか出てこない。ひたすらシンプルな、よくいえばそぎおとした世界だ。で、カルトムービーとして知られるのはむしろこっちなのかもしれない。ストーリーが一応ちゃんとあって、物語をスタイリッシュな画面で語る『殺人狂』とちがって、ときにストーリーほぼそっちのけの表現主義的ともいえる画面がつらなるのが本作だ。
この映画も入念に抽象的な風景をえらんでいる。ロケ地は、横須賀の突堤やその他都内の、おそらく東京オリンピックがらみで一気に整備されたモダンデザインの建築やインフラの一角をうまくつかって、時にはキリコの絵みたいな構造物と陰影だけのなかで人を走らせたりしている(たしかそんなシーンがあったような)。

一応ストーリーは連続しているんだけど、あまり構成が明快じゃないうえに、見たのがわりに前だったというのもあって、どんなぐあいに話が進んでいたのか、正直後半の展開は忘れてしまった。なんだか敵どうしで同居してたような気がする。その理由は不明である。
はっきりしてるのは謎めいた美女、真理アンヌの美貌だ。『殺人狂』の団令子のどこか親しみをもてるかわいさとちがって、モノクロの陰影がやけに濃い画面の中で、ライティングもふくめて彫像のように、現実味のあまり感じられない、ほとんど隙がない容貌を見せつける。セクシーシーンもたっぷりだ。ちなみに、よりお色気を強調する役の小川万里子は、比べてこれいうのもアレだけど、「時代か……」とつぶやかずにはいられない体つきで、ヌードも現実感あふれる軽い物哀しさがただよってしまう。

あれだね、この映画、ふと思い出すとラス・メイヤー監督『ファスター・プッシーキャット・キル!キル!』的なところがあるかもな。たとえばストーリーやドラマやアクションで生まれる(つまり大多数の映画が観客にもたらそうとする)緊張感じゃなく、それとまったく無関係なイメージや表現だけからもテンションがでてきてしまう、というところもね。