新幹線大爆破


<予告編>
ストーリー:東京発博多行きの新幹線に爆発物をしかけたという電話が入る。犯人(高倉健)は周到な準備で、80km以下にスピードが落ちると爆発する装置を車両に取付けていた。警察が犯人とコンタクトをとるいっぽう、国鉄の車両管理官(宇津井健)は運転手(千葉真一)と連絡をとりあいながら危機を乗り越え、西に向かって列車を走らせる。しかし政府上層部は、どうしても爆発物を解除できない場合は、この列車をあきらめ、人家がない地域で爆発させる判断にかたむいていた……


今さら見ると意外に楽しい典型だろう。楽しさの要素は3つ、
1.70年代的なサスペンスがストレートにいい
ぼくは他の邦画よりとりあえず『ジャッカルの日』を思い出した。画面中の時代感も似ているし、アクション頼みじゃなく、綿密に準備し、計画した犯罪者と地道な捜査で犯人を追い詰める警察側とのもりあげのバランスがいい。海外公開版(フランスでヒットしたとか)では削除されたという、犯人側のパートは、多少ウエットすぎるきらいもあるけれど、犯人側が1人ずつ欠けていく流れのエモーションを強化しているはずだ。
2.東映の下世話さ込みの熱気
濃く、熱い。男の汗系である。とりあえず男優たちがアップになるとほぼ肌がてかっているはずだ。高倉健宇津井健の両ビッグ健。抑制的でありつつフィジカルに動く側の犯人と、目を見開いて絶叫する管理官。もちろん運転手千葉真一も汗みずくだ。この撮影自体、犯罪を誘発しかねないと国鉄の協力がえられなくなってから、走行シーンはゲリラ撮影で撮りまくり、外国人をスパイにつかって管制室を見学させてセットに生かし、車両を製作した日立だのの企業に頼んで実車そのもののセットを作るなど、アナーキーなまでのエナジーで製作にむけて驀進するのだ。もはやメジャーではコンプライアンス上不可能な熱さだろう。
3.時代をこえた突っ込みをゆるす懐の深さ
正直に言おう、お話は力強くご都合主義である。犯人のプロットも相当周到なわりに出たとこ勝負な面もあり、かつ必要以上に絵になる現場を取引場所に選んだり、そのいっぽう「えっ、そこまで想定してたの!?」という準備があったりとなかなかレベルを掴ませない。そして何度も危機を生じさせるためにあらゆる偶然が援用され、登山道をとつぜん柔道部員がランニングしていたり、あまりにもなタイミングで新橋の喫茶店が爆発的な火災に見舞われたりと「これは先生いくらなんでも」という嘆声をよびおこすシーンの宝庫である。そうしたすべてうけいれる厚みがこの映画にはある。

ストーリーでみなさん思い出すように、『スピード』のプロットそのものだ。もちろん10年以上先行している作品。原作があるわけじゃなく企画・脚本チームのアイディアだ。ちょっと残念なのは危機の当事者でもある乗客の描き方がうすいというところ。若干乗客のドラマもあるんだけど、基本的には騒ぐだけの愚かな大衆のレベルを超える客はいない。だから列車が爆発するかもしれないというはらはらには、客のだれかへの感情移入こみの「あの人を助けてあげて….!」的エモーションはないのだ。登場人物も多いからそこまで盛り込むと散漫になるのかもしれないけれど、なんだか後年のフジ系の映画(『踊る』シリーズとか『ハッピーフライト』とか)の一般市民の扱いに似たものを感じてしまった。