配信系2作! アメリカン・フィクション&ソルトバーン

🔷ソルトバーン

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ストーリー:オックスフォード大学の新入生、オリバー(バリー・キオガン)は周りの上流階級の同級生たちに馴染めずにいた。ぐうぜん知り合った貴族階級のフェリックス(ジェイコブ・エロルディ)と気が合ったオリバーはだんだんと友人になり、夏休みに自宅に招待される。広大な邸宅に住む貴族の一家、そこに出入りする親戚の男女。オリバーはいつの間にか彼らの間に浸透していく....

Amazon Prime配信。監督はエメラルド・フェネル。プロデューサーにはマーゴット・ロビーも入っている。初めはイギリスらしい階級ギャップものかな、と思って見ていた。オリバーは「家はどうしようもない下層階級で、母親はヤク中、父親はこの前死んだ」とフェリックスにポツポツと語る。フェリックスは「オウ...」という感じで知らない世界から来た友人に同情する。

貴族の一家は、極東の僕らが想像するような優雅で保守的なライフスタイルを守る人たちかと思うとそうでもない。親戚にはゴスっぽい生活が乱れ切った女性もいるし、別の親戚、オリバーの同級生はアングロサクソンではなく経済的にも苦しそうだ。母親はいやに辛辣で誰のこともボロクソにいうし姉もだいぶ病んでいる雰囲気だ。パーティーではカラオケショーが開催される。

「貴族の内実」モノは今までもあった。庶民階級のオリバーがギャップに戸惑いつつ、僕たちの視線の代わりになってそんな風変わりな彼らの生態を見ていくのか...と思っていたのだ。ところが物語は途中から急旋回していく。ざっくりいうとサイコパスのクライムストーリー+BL味になっていくのだ。

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(c)2023 Amazon MGM. via IMDB

本作の最大の特徴は過剰ともいえる性描写だ。大部分は男性によって演じられる。主人公役のキオガンは『聖なる鹿殺し』で見せた、表情が読めない不気味青年のノリをさらに誇張して演じ『聖なる...』で抑制していたセクシュアルなシーンを一身に担当する。全裸ヌードも込みの体当たり演技だ。

サイコパス的犯罪の部分はそんなに出来はよくない。じわじわと心理的に侵入して支配して破滅させる...みたいなサイコっぽい不気味さがあまりなくて、しかも犯罪としての完成度が信じられないくらい低い。そのくせ完全犯罪達成、みたいな雰囲気になっているのだ。性描写も含めて、なんて言うんだろう「本来そんな資質がない作り手が無理矢理エグい物語を作ろうとして考えた」ような雰囲気を感じてしまった。

あの必要以上の男性エロはなんだろう。監督がエメラルド・フェネル、男の性的ファンタジーをこれ以上ないくらいに断罪して見せた『プロミシングヤングウーマン』の作り手だと思うと、男性観客への逆襲なんじゃないかと思ってしまう。いままでサスペンスものに無意味なエロが添えられる作品はいくらでもあった。もちろん女性のね。「女を武器に」系犯罪者モノもあった。ヒロインはみずからセクシーさを見せつけなきゃならない。

フェネルは「女性観客がそういう作品を見ていた時の胸糞悪さ」を男女をひっくり返して男性観客に突きつけてるんじゃないか、という気さえした。そんなテーマで商業作品は作れないだろうから、裏の意図としてね。まあ、イギリス紳士BLモノといえば『アナザー・カントリー』など一ジャンルあったわけで、ひねりに捻ったその2023年版といえばそうなのかもしれない。


🔷アメリカン・フィクション

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ストーリー:大学で文学を教える作家、モンク(ジェフリー・ライト)は作品が売れない。「黒人らしさがない」と言われてうんざりした彼は、ストリートギャングの黒人のふりをして乱暴な小説を書く。ところがその作品が大評判になり、正体を明かせないモンクは....

こちらもAmazon Prime。プロットが全てじゃないかと思いそうになる。作者がホンモノのギャング上がりだと思っている人々の前では無理矢理ストリート風の口調を真似して、本来のインテリ作家の顔で参加する会議で自分の作品がみんなの話題に登るとあわててコキおろす。要するにコメディだ。

でもすぐに分かるようにだいぶビターで繊細でメランコリックなコメディだ。モンクは医師の家庭に生まれた知的な中流階級の子供。兄弟どちらも医師だ。母親は歳をとった今でも一目でわかるくらい美しい。でも知的な中流階級の黒人は他の人種から見たパブリックイメージに合いにくいから、作家として自分そのものでいるとどうにも上手くいかないのだ。

母親は認知症になり始めていることがわかり、家族は急速に危機におちいる。ここから物語は家族の歪みと再生みたいなしんみりしたトーンになる。ラストは「えっ、そういうまとめ方!?」みたいなオチだった。生活実感としてアメリカでの人種ごとの扱われ方や見え方が分かっていると沁みてくるんじゃないかと思う。

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(c)2023 Amazon MGM. via natalie

違和感があったのは、主人公のお兄さんの扱いだ。彼はゲイで、両親に受け入れられていなかった。浮気がバレて離婚した彼は思うままに遊び始める。その彼が何ていうか、ちょっとカリカチュアライズされすぎの気がした。浮いた派手目ファッションだったり、無駄にマッチョだったり、家に遊び相手のお気楽ボーイズを連れ込んだり...本作が人種のステレオタイプを押し付けられる悩みの物語なのに、セクシュアリティの扱いはこんな感じ?と思ってしまった。まあここも生活実感として分かってるわけじゃないから、リアルに描いているのかもしれない、けど。