シェイプオブウォーター


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ストーリー:政府の研究所で清掃係として働くイライザ(サリー・ホーキンス )。夕方に起きてバスで出勤、面倒見のいい同僚のゼルダオクタヴィア・スペンサー )にそれとなく助けてもらいながら毎日がおなじように過ぎていく。研究所に南米で捕獲された半魚人が運び込まれる。水槽に繋がれた半魚人をひと目見てイライザは惹きつけられる。ひと目のないときに声をかけ、玉子を与え、プレイヤーを持ち込んでレコードを聴かせる。でも軍から派遣されたストリックランド(マイケル・シャノン)はその生物が兵器として使えるか、解剖する予定だという。半魚人の死が迫ることを知ったサラは助け出せないか、計画を練り始める....

とてもていねいに作り込んだ、「珠玉」ということばがぴったりの一作だった。オチは見えている。ロマンティックなファンタジーならほかに結末はないのだ。だから意外な展開はない。敵役のアメリカとソビエト双方の軍組織が入り乱れて主人公たちを追うけれど、スリルもそんなにない。
ロマンティックですから。愛といっても性愛だ。このお話は、怪物的な外見の生物に、女性がその柔らかな肌をまかせる、それをこのうえない美として描くのだ。もちろん、持って生まれた肉体を怪物的とされてしまう男の、愛を得る物語だともいえる。下敷きになっている『大アマゾンの半魚人』の有名なシーンは、半魚人主観で人間の美女を追うのだ。それを本作で成就させるのなら「怪物」側のお話になる。でも、話の視点は完全にイライザのもの 。思いをよせるのも、行動するのも彼女で、半魚人はほぼ「愛の対象」としてそこにいる。人間をおびやかすような知性も欲望も、もちろん邪悪さも見せない。神的でイノセントで、野生の暴力性があり、でありつつ深遠な智を秘めていそうな......宮崎アニメとかにも出てくる神的な動物・怪物にどこか似ている。


監督は本作には多人種のまじわりの排斥を叫ぶトランプへのメッセージがこもっているという。さらりと壁を越えるヒロインも、いろんな種類のマイノリティたちもお話を彩る。でも異人種との恋愛の話じゃない。あいてはひたすらイノセントで、もっといえば空虚なのだ。だからある意味、アレだ、おおきくいうと『E.T』的ともいえる気がしてきた。途中、ゲイのおじさん(初老)が半魚人の奇跡のちからでハゲ頭に毛が生えるといういやに下世話な話があるが、そのへんもどこか似てるじゃないか。癒しの力。
そんなわけで、男の観客でも、思いを寄せるのはヒロインなんじゃないだろうか。監督はヒロインにどちらかといえば地味なホーキンスを選んで彼女の特権性をなくし、冒頭の、彼女の毎日のルーティン描写で「このお話はロマンティック・ファンタジーだけど性の問題は隠しません」と宣言する。もやっとした性欲を抱え、ぱっとしない日常を送る女にとっても男にとっても彼女はリアルなのだ。

たぶん観客は性愛についてもヒロインに思いを寄せる。このテーマは性につきまとう皮膚感覚的な恐怖、人体の損壊をともなう(医療でいう「侵襲的」っていうやつ?)恐怖とわりと密接で、おそらく程度の差はあっても無意識の恐怖は男にも女にもあるんじゃないだろうか。半魚人の体はウロコでおおわれていて尖った爪やヒレもある。序盤で、半魚人は少佐に深い傷を追わせているのだ。肌をまかせるといったって......そこもまた、彼女がさらりと壁を越えてるところだ。
画面は『ヘルボーイ・ゴールデンアーミー』とおなじようにシーンごとにドミナントカラーを決めて、ヒロインの心情の変化をとてもわかりやすく色でしめしたり。美術のすみずみまでキッチュすれすれまでコンセプトが徹底した、ジャン・ジュネテリー・ギリアムウェス・アンダーソンの系統。