映画の中のフィジカル RRR ・ベイビーわるきゅーれ・サンクチュアリ〜聖域・アフリカンカンフーナチス

◽️RRR

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S .S.ラージャマウリ監督、2021年公開。日本では興行収入20億円以上で国内洋画余裕のベスト10内、世界では200億円くらいで堂々の大ヒットだ。

日本でインド映画というと以前はラブ、アクション、ミュージカルシーン全部盛りの娯楽系、「たまにあの味欲しくなる」料理と同じエスニックの枠だった。インド国内では北インド系のボリウッド南インド系のトリウッドなど話す言葉も(たぶん役者の顔も)違って多様性があるんだろうけれど、たいていの日本の観客にとっては一緒だろう。割と振り切った表現も多くて、こんな感じの珍品を味わう存在だったりした。

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本作も大盛り娯楽大作なのは変わらない。見ていて顔がほころぶ突き抜けたシーンもそこそこある。しかし辺境の珍品扱いはもうだれもしないだろう。画面のリッチさや映像表現の洗練ぶり、史実を踏まえた第三世界的メッセージとストーリー、日本の大作を圧倒するメジャー感だ。

それでもキャストはインド系スターだからローカル感はちゃんとある。これを世界各地の観客が普通に受け入れてるのも最近の話だろう。アジア系もアフリカ系もインド系も、最近見る映画や配信作品の中ではいろんな人種がフラットに混在する画面を観客が見慣れてきた。インド料理が「変わったもの食べに行こう」じゃなく日常ランチのローテーション入りしたのと同じだ。

本作はアクションでもあるし、役者のフィジカル面の画面的押し出し力もまた十分メジャー級だ。そこはわりと必須だろう。この「ガタイのいい俳優はなんとかいっても見栄えがする」感覚は俳優たちの多様性が進んでも観客の間にしぶとく残っていくものかもしれない。

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◽️ベイビーわるきゅーれ

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監督坂本裕吾、2021年公開。これもアクションムービーだ。画面にかけた予算や役者の見た目のガタイなんかどうでも、キレがあって美しい動きを、すごい身体能力を上手く撮れば、十分映像として見られる、というのを分からせられる映画。日本映画らしく若い女性が主人公になっていて、マッチョなフィジカル志向からそもそも外れていていい。

この感じは、近年のハリウッドやヨーロッパ作品でも女性をアクションの主役級に持ってくるようになったのと同時代性を感じるし、それ以前に国内アニメが連綿と美少女キャラに戦闘させてきた歴史のせいで日本の観客がじつに自然に受け入れるという部分も思い出させるだろう。とはいえ、幻想の美少女みたいな演出はいっさいしていなくて、むしろ登場人物たちが美少女幻想をコスチュームとしてまとうメイド喫茶でのバイトシーンを持ってくるあたりがいい距離感でさわやかに見られる。

 

◽️サンクチュアリ -聖域-

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監督江口カン、2023年配信開始の全8話ドラマ。大相撲で成り上がる破天荒系力士の物語を角界の旧弊さや闇的なものと絡めながら見せていく。

スモウレスラー。フィジカルで劣る日本人の中で、唯一身体で圧倒しそうな雰囲気を醸し出し、同時に幻想の日本文化のアトリビュートに満ちた、他文化から見ればなんとも絵にしたくなる存在だろう。いまでもちょっとコミカルな「日本」の記号として、かつ強者の1バリエーションとしてキッチュ系の映画では使われる。『ジョン・ウィック』3でNYの殺し屋として出てきたり、最新作でも真田広之が指揮する殺し屋ホテルの戦闘員としてまげを結って和服を着て登場する。

本作ではスモウレスラー=力士の肉体の厚みを十分に表現してくる。格闘系の役者や元力士を選び、十分に体を作らせて、素人目にはまったく嘘くささがない映像だ。世界配信だから海外の幻想にもちゃんと応えて、異分子として入ってくる力士も、受け止める相撲界も全員日本人だ。ここ30年以上、フィジカルに勝る外国人が本気で参入してくると相撲界もドミネートされるんだ、ということは日本人観客なら全員わかっていることだけど、そこは持ち込まない。

外国人力士グループのストーリーやせめぎ合いも入るとまた話に複雑性が出たと思うけれど、本作ではまずは直球の成長物語に集中した感じだ。

 

◽️アフリカン・カンフー・ナチス

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2021年公開。ガーナ・ドイツ・日本合作。いわゆるトンデモ映画だ。第二次大戦でヒトラー東條英機が生き残り、アフリカ、ガーナに渡る。そして現地を支配して〈ガーナ・アーリア人〉として洗脳していた....善玉空手道場はこの悪の軍団に壊滅させられ、主人公は復讐のために秘密の特訓を重ねて彼らが開催する武術トーナメントに出場するのだ。時代はだいぶ現代に寄っているのに(DJセットも普通にある)ヒトラーも東條も若々しく武術の腕も衰えはない。

本作、日本在住歴が長いドイツ人が企画し監督・脚本・主演、ガーナに渡り現地のニンジャマンというアクションムービーの作り手とコラボして撮影。東條英機役は日本の便利屋、秋元氏が便利屋稼業の一環として請け負ったということになっている。

ニンジャマンというのもオールドレゲエファンからすれば、「いやいやこいつでしょ」ということになる。制作エピソードらしきものは監督インタビューで読める。なんだか全体になめてるな、という思いがじわじわ湧き上がってくるのだが、トラブル続きだったというガーナでの撮影エピソードも、ガーナ側が真面目に相手するのがバカらしくなっていた可能性もある。またはインタビュー全体が適当な思いつきトークである可能性も捨てきれない。

舞台がガーナなのでヒトラー東條英機以外は全員地元キャストで、ゲーリング役も巨体のガーナ人、もちろん主人公も戦う相手たちも地元民だ。本作がギリギリ見られるのは、ガーナ人キャストたちが武術のトレーニングをそれなりにこなしてきている感じで、かつ当然のように身体能力が高いのでアクションシーンが一応絵になっているところだろう。東條英機役の秋元氏はフィジカル的にはまさに典型的日本人中年男性でありつつ、役には違和感なく、VFXの力を借りて、最強戦士の1人として躍動する。