ブックスマート

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ストーリー:モリーとエイミーはLAにあるハイスクールの親友同士。モリー最高裁判事を目指し、エイミーは社会活動に熱心な、勉強家タイプ。卒業式を明日にひかえ、2人とも東部の名門大学に進学が決まって「まわりのアホたちとは違うし」と思っていたら、イケイケ組も普通に名門大やGoogleに進んでいた。せめて最後くらい遊び倒そうと決意した2人は、卒業パーティーに参加するために夜の街に出発する....

アメリカ映画の〈ハイスクールもの〉ジャンル。たいてい生徒が車で通学するので、いきなり別世界感がすごいんだけど、それでも名作は多い。近年だと女性監督の、女子を主人公にした作品が目立っている。思うに本国では昔ながらの「少年がオトコになる一夜」的なのとか、「憧れの彼(彼女)の心を射止めて」的なのとかが量産されてそうな気はする。ただ作り手側も見る側もいい加減いままで描かれなかった物語が見たいんだ、というのはあるんだろう。

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本作は思い切りコメディだ。少年少女の「ある特別な一夜」、ハイスクールの卒業を描く、このジャンルでは定番の作りだ。監督は女優オリビア・ワイルド。当ブログだとF1モノの名作『ラッシュ』とか『her/世界でひとつの彼女』に出演している。主演は『デトロイト』で警官に監禁される女の子役で出ていたケイトリン・デヴァーと『レディー・バード』で主人公の親友役だったビーニー・フェルドスタイン。

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本作、みなさんもたぶんお馴染み、『逃げるは恥だが役に立つ』を思い出した。お話の枠組みは、ラブコメ要素も入れて引っ張りながら、その描き方、設定がじつに配慮が行き届いているのだ。『逃げ恥』ほど正面から説明したりはしないけれど、今までのドラマに普通に入り込んでいた、じつは抑圧的だったり、少数者を見ていなかったり、ある種の暴力を当然だとしたり、というのを丁寧に取り除いてある。

例えばわりと新しい作品でも『アメリカン・スリープオーバー』では少年の欲望と、それに突き動かされたちょっと行き過ぎの振る舞いも寛容に描いていた。本作ではそういう強引さは完全に排除されている。セクシュアリティも、主人公エイミーの同性愛設定は「そういうもの」として普通に扱われラブコメの一要素になっている。作り手たちは「エイミーのキャラクターのなかで、セクシュアリティの重要性は4番目か5番目」と言っている。

人種もそう。この手の作品でイケメン枠はほとんど必ずスポーツができるアングロサクソンだったけど、本作ではプエルトリカンだし、スポーツマンはアジア系、Googleに行くテック系エリートはメキシカンだ。すべてわざわざ断ったり説明したりしないで、ただ多幸感あふれる高校の世界をそういう要素で構成している。

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アメリカン・スリープオーバー』が「神話」だったみたいに、本作も一種のパラダイスを描いている。悪役が1人もいない、いわゆる「全員善人映画」だ。固定的な偏見を振りかざす奴は1人もいない。ここも『逃げ恥』と似ているのだ。監督は「悪役を入れるとそういうデバイス(分かりやすい機能を持った役、的な?)になってしまう」と言っている。

本作は〈受け入れる〉ことの物語だ。イケイケ組はガリ勉の生徒会長だったモリーの悪口を言っていた。エイミーだって「活動家」とか言われる。でもパーティーに現れた2人は居心地悪い思いなんてしない(ここ、今までのドラマだったら最高に辛い場面として描くのがよくあった)。イケイケ組もすごく感じ良く、「よく来てくれたね!こっち座りなよ」のノリなのだ。

ガリ勉側も彼らを内心「高校時代が人生のピークなんでしょ、あたしたちはこれからガンガンエリート街道行くし」的な視線で見ていたのが、それぞれの知らなかった一面を知って、偏見を捨てていく。

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青春モノはどんな大人と関わるかも大事だ。『レディー・バード』は厳しい、束縛する母親との関係。『スウィート17モンスター』ではいい距離を保ちながら見守るおじさん教師。本作では緩めの校長先生と、友達っぽい女性教師が大人枠。女性教師のジェシカ・ウィリアムズがとてもいい。本作の大人たちはあまりしっかりしていなくて、「大人だってこんなもの」を見せてくれる役だ。

そんな感じでまさに多幸感あふれ、気分よく見られる世界だった。アメリカ青春映画にありがちだけど、パーティーの舞台になる家があまりにもゴージャスで、全体に豊かすぎたり、主人公2人のハイテンションな会話が達者すぎたり、高校生役の女優さんたちが成人女性にしか見えなかったり、と、自分にとってリアリティないのはしょうがない。高校時代も遠いむかしだし。

でも距離感感じてたクラスの主流派が案外いい奴らで受け入れられた、その頃のハッピーな気分を少し思い出した。作り手たちは「今まであった青春コメディのガールズ版だと思って欲しくない」と言っている。

ロケ地はこの辺に詳しくのっている。

■写真は予告編からの引用

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