ベルイマン島にて 〜作り手と人格と(2)

 

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ストーリー:映画監督のトニー(ティム・ロビンス)とクリス(ヴィッキー・クリープス)は娘をおいてスウェーデンフォーレ島にきた。巨匠イングマール・ベルイマンゆかりの島で、古い家に滞在して夏の間創作にひたる。クリスはなかなか脚本が進まない。やがて途中までできたラブストーリーをトニーに聞かせて.....

前のエントリーでも書いた、監督イングマール・ベルイマン。その人格に切り込む作品か?と思って見だしたら、少し違った。一番表層のレイヤー(物語の外見)は、美しい北欧の島の夏、ベルイマンゆかりの落ち着いた空間の中で、大人のクリエイター男女の心の機微を穏やかに見せる、そんなBunkamuraやシャンテシネ感溢れる一作だ。

それより作りとしては、物語のリアリティのレベルを操り、それを意識させるタイプの作品だった。クリスが語る脚本が、物語内の「現実」と同じロケーションで、同じレベル感で劇中劇として見せられるのだ。ヒロインには明らかにクリスの思いが投影されている。そして劇中劇と思っていると....フィクションとして映画を見ている観客の無意識の了解をちょっと揺らがす作りだ。

まっさきに思い出したのはキアロスタミの『トスカーナの贋作』。ヨーロッパの古い風景と男女の機微、みたいな舞台設定もよく似ている。それ以外でもオゾンの『スイミング・プール』、ロシア映画『インフル病みのペトロフ家』も劇と劇中のフィクションの境界をあいまいにした、個人的に好きな作品だ。リアリティのレベルははっきりしていても劇中の登場人物の語るストーリーがどんどん比重を増していくのが『ノクターナル・アニマルズ』。独特の沈鬱さがいい。

そんな作りにくわえて本作は、物語内の「現実」、年上の映画監督と、創作に悩む主人公の(ほぼ)夫婦の設定は、作り手であるミア=ハンセン・ラブの実人生、つまり映画の外の現実がわかりやすく投影されているのだ。そして実在のフォーレ島、ベルイマンの業績を伝える島の施設の人々(実在の人が本人役で出てもいる)というドキュメンタリックな面も混じり合っている。

https://ogre.natalie.mu/media/ex/film/189132/flyer_1.jpg?imwidth=640&imdensity=1

(C)2020 CG Cinema - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinema

via Natalie

クリスは名声あるクリエイターであるトニーに先輩としての助言やヒントをもらいたいけれど、たぶん自分の影響をあたえたくないトニーは何も言ってくれない。あとさりげなくクリスは「せっかく2人きりなんだし」誘って見せる時もあるけれど、トニーは無反応だ。どことなくその辺りのフラストレーションがクリスの脚本の満たされないヒロインに映っているように見える。初恋を引きずる可愛い(けれど若干面倒くさい)女性役でミア・ワシコウスカを久しぶりに見た。

ベルイマンが6人の女性との間に9人の子供を作った...というパーソナリティへのコメントは主人公クリスのセリフとして出てくる。そこははっきりと明言する。主役に言わせつつ、監督はカットバックでトニーに沈黙と微妙な表情を与えている。ちなみにトニー役ティム・ロスは最後にやっと出演が決まり、撮影現場では彼と周囲の関係がものすごく悪かったらしい。見ていると別に分からないけどね。そこはドキュメンタリックな生々しさがあるわけじゃなかった。

舞台は実在のフォーレ島で、ベルイマンゆかりの建物や施設をそのまま使っている。伝統的な家や風車小屋もあれば、石積みの塀に囲まれた開口部が多いモダンデザインのアトリエもある。石積みの塀は古代から世界中にある工法、薄い石を重ねた小端積みだ。海沿いの風よけだろう。島はバルト海の真ん中、ストックホルムよりは南だけど、かなり高緯度だから夏を舞台にした本作ではほぼ白夜だ。下のmapの建物はベルイマン・センターフォーレ島ではこんな感じのところに泊まれるみたいだ。自分が敬愛される映画作家だったら、こんな島でひと夏過ごしたらいい気分だろうなあ。

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