JOKER

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<公式>

ストーリー:アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)はクラウン(道化)。会社から派遣されて店の宣伝や病院の慰問に行く。もちろんたいした稼ぎじゃない。結婚なんて望むべくもなく、体の弱った母親と2人暮らし。彼はスタンダップ・コメディアンに憧れていた。人気ホスト、マレー(ロバート・デ・ニーロ)のTVショウがお気に入りだ。だんだんとどん底に近づいていく人生のなかで、1つだけ光が見え始めていた。コメディアンとしてデビューできる....?

大ヒット中。いま日本公開4週目だけど興行収入連続1位キープ中で、国内トータル35億円を突破、世界では9億ドルを超えている。ぼくが見に行ったのは10月なかばの横浜だった。客席はもちろんほぼ満員。この感じも久しぶりだ。ヒット作らしく客層も若い方に広がっている。当たる要素、そんなにある? MCU的なアメコミヒーローは影も形もないし、主演はくせものホアキン、他に客を呼べる役者はいないし、映画の見た目も、過去のフィルム調で渋く、派手なきらきらした要素はいっさいない。

本作、いろいろ言われている。リッチマン重視の政策から見放され転落していく中流市民の姿そのもの(アメリカでも日本でも!)、Incel(Involuntary Celibacy ≒ 非モテ)を正面から描いた映画だ、いやこいつら白人男性だからまだマシで黒人だったら今ごろ収監か殺されてる......。もう少しバットマン自体が好きな人だとこうなる。ジョーカーがこんな訳ありのいい人? なに話を真に受けてるんだよ、わかってないな、メタ構造に決まってるじゃないか、ラストシーンを見ろよ.....

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表面上のメインストーリーは分かりやすい悲劇なわけだ。脳に機能障害があって普通に働けない気の毒な男。周囲の世界すべてが彼を虐げ、搾取しようとしてるみたいだ。いろんな行き違いや悪意で、かれの居場所はいよいよなくなっていく。そして最愛の母も…気が付くと騒然とした街のアンチヒーロー、「純粋な悪」ことジョーカーが誕生していた。

同時に本作は「どこまでが映画の中でのほんとうなの?」式映画でもあって、映画内でも①事実 ②アーサーの明白な白日夢 ③アーサーの願望からきた妄想、またはアーサーの願望の映像化.....少なくとも3つのレベルがあり、シームレスに入れ替わるから、客からすると今見たシーンがどのレベルの「現実」なのか分からないときがある。だからこそトリックスターのジョーカーだけに『ユージュアル サスペクツ』風のどんでん返しを重ねあわせたり、『ライフオブパイ』『KUBO』みたいに、全体がナラティブそのものについてのメタな要素を持ってるように見たり、ストレートに受け止めるなよ、という作品ではある。

ただし、物語の構造と関係なく、観客が見ている「これ」を圧倒的に真実だと確信させるものがある。それがホアキン・フェニックスのどうとも表現しがたい存在具合だ。沈鬱で、時に苦しそうに笑い、時にぎらりと目を光らせ、抑圧されているようで解放そのものみたいな流れるようなダンスを舞い、そしてついにあのジョーカーのメイクをし.....

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本作のジョーカーは原作のジョーカーでよく言われる「化学薬品のタンクに落ちて、肌の色が抜け、髪が緑になり、口の両側が裂けた」みたいなエピソードはない。予告編にもあるように自分でゆっくりとメイクして、アーサーはジョーカーになるのだ。

それにしてもホアキン。『ビューティフルデイ』と同じように本作はほとんど最初から最後まで主人公を追う。ホアキンは『ビューティフル』の異様な体の厚みから、今度は信じられないくらい肉を落として主人公を演じる。肉を落としても奇妙な骨格はそのままだ。『ザ・マスター』『インヒアレントヴァイス』『Her』、色々と化ける彼だけどえも言われないオーラは隠せない。なんていうんだろう、禍々しさだろうか。

ジョーカーファンが言うみたいにこの物語全体がジョーカーのそれこそジョークという作りなのかもしれない。少なくとも物語の「現実」はすこしも盤石じゃない。それでも、一部のどんでん返し映画みたいに、ラストでそこまで言っていたことが書割りみたいに無効化するか、というとそういうタイプの映画じゃない気がする。途中まで語られていた救いのない男の物語はどうであろうと有効なのだ。

本作のメインのお話はJOKERじゃなくても成り立つ。だけど映画としてはJOKERである必要があるのだ。

 ■画像は予告編からの引用

 

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