■ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結
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DCもの・MCUものは単発の作品と違って壮大な物語世界をふまえ過ぎている感はどうしてもある。その中では本作はわりと爽快に楽しめた。ストーリーはシンプルなので略。自分の中では『デッドプール』と同じタイプの楽しさだ。あえて命を極限まで軽く扱うことの風通しの良さみたいなことだろう。この手の見栄えはどうしてもアメリカでしか作れない。役者も含めてダイナミックさがね。
悪役軍団スーサイドスクワッドのキャラクターは過去コミック参照なのは分かるけど、最後に出てくる着ぐるみ特撮感(=円谷感)が最高潮のモンスターも過去コミックにあったのはちょっと意外だった。『ガメラ2 レギオン襲来』にもすごく近いイマジネーションだ。
映画のカラーに合わせて日本版公式サイトでもDCヒーローっぽさは出さず、ポップさと「悪役軍団モノ」を前面に出している。監督ジェームズ・ガンの紹介に商売敵の名作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の名前を出してるのも面白い。キャンセルカルチャーの餌食となってMCUを追放されたガン監督だけど縛りが解けてオリジンの香が濃くなっている。
監督の出身、トロマエンターティメントは『悪魔の毒毒モンスター』や日本ロケの『毒毒モンスター東京へ行く』とかが公開当時わりと親しまれていて、けっこう好きな人はいた。見たことない人も予告編でだいたいの世界はすぐわかる。
中盤のクライマックスで「悪の塔」みたいなところで巨大水槽が爆発して大量の水が高層建築の上から激流になって襲ってくるシーンがある。最近見たなと思ってたら湯浅政明監督『きみと、波に乗れたら』だった。源流はパニックムービーの古典『タワーリング・インフェルノ』かも知れない。
そんなわけで「極悪」スクワッドのメンバーたちは実はぜんぜん倫理的だし、メッセージはストレートで、同じ悪趣味系ヒーロードラマ『ザ・ボーイズ』の国家・巨大企業に抵抗するチームと近い存在。主人公たちは相当色々考えない限り、わりと抵抗なく感情移入できる人たちだ。
それにしても同じシリーズネタの『JOKER』とは違うユニバースなんだよね?確かにこのコミック世界のふところの深さはすごい。
■ハーレイ・クインの華麗なる覚醒
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『スーサイド・スクワッド』の中心人物、ハーレー・クインをさかのぼって見た。シンプルに楽しめるアクションムービーなのは当然として、本作は向いてる方向がこれ以上ないくらいはっきりしていて、DCものであると同時に、近年のハリウッドの意識改革で続々と作られるようになった「多様性を目指した」作品の一つだ。
まあ、映画業界も前以上にSDGs的な公正な企業姿勢を見せないわけにいかなくなったということだろうけれど、見てる側からすれば、ヒーロー象もアクションのアイディアも色々になって、明らかに豊かになったと思う。
本作は物語の構造としては相当単純化している。ヒロインは依存していたジョーカーと別れて戦闘能力の高い女性チームと段々と団結していくようになる。敵は女性嫌いのギャングだ。初めは敵対していた女刑事も署内で男の刑事に功績を上手く持っていかれて昇進できない。女性の敵キャラはほぼいなくて、男性の味方キャラもほとんどいない。
たぶんその辺りはあえて思い切りシンプルにしたんだろう。華麗な動きのハーレイ・クインと仲間たちが鈍重でマッチョな男たちを1秒1人くらいのペースで倒していく映像をとにかくポップに見せるのだ。マーゴット・ロビーはどの程度アクションを自分でしているのか分からないけれど、『アイ・トーニャ』でもフィギュアスケートをかなりマスターしていたそうだから身体能力が高いんだろう。
身体能力だけじゃなく企画そのものにも深くコミットしていてプロデューサーの1人だ。スタッフ編成やキャスティングも彼女の考えが反映している。今年公開の『プロミシング・ヤング・ウーマン』プロデュースといい、他の出演作といい、シャーリーズ・セロンと双璧感すら出てきた。役者としていうと顔にわりとクセがなく本作のコミック的作り込みの収まりがいい。
メンバーの1人クロスボウ役メアリー・エリザベス・ウィンステッドはタランティーノの『デス・プルーフ』で悪役凶悪ドライバーを撃退するチームの1人。女刑事役ロージー・ペレスは名前を知らなかったけれど『デッド・ドント・ダイ』『悪の法則』古くは『ドウ・ザ・ライト・シング』にも出演してた人だ。