NOPE/ノープ

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ストーリー:ハリウッドに近い荒野で馬の牧場を経営し、映画に貸し出しているヘイウッド家。この辺唯一の黒人が経営する牧場だ。父が不可解な事故で死んで長男のOJ(ダニエル・カルーヤ)が引き継いだけれど、経営は思うようにいかない。父の事故は空から降ってきたコインが頭蓋骨にめり込んだのだ。あきらかに巨大な何かが上空にいた。妹のエメラルド(キキ・パーマー)はそれを動画に撮れれば一気に売れると撮影機材を揃える。そしてまた上空に.....

本作、まず言えるのは映画館で見るのがふさわしいし、たぶん損した気持ちにはならない。映画が一律料金なのって時々不思議に感じるところがあって、「どう見てもこれは水曜の安い日グレードでしょ」と思うのは結構あるけれど、本作は堂々の正規料金グレードだ。映像はIMAX対応で美しいし、大画面で圧倒されて楽しむタイプのスペクタクルだ。しかも音響がただの重低音大爆発とか音楽かけっぱなしとかじゃなく、独特なサウンドで見る側を揺さぶり、映像の情報量を何倍にも膨らませてくるので、劇場の音響じゃないと映画が薄味になる。

そう、監督ジョーダン・ピールの第3作の本作は、『ゲット・アウト』『US』の、わりとミニマルでミステリアスな世界の出来事と比べると、はっきりとSFスペクタクルだ。いや前2作も画面はスタイリッシュだったし特に顔演出にそうとうインパクトはあった。ただ本作はストーリーとかプロットをある部分超えて、画面や音響で満足度を与えようという、スペクタクル映画そのものの作りだ。そりゃそうでしょう。巨大UFOものですから。

ただ、いわゆるその手の大作とは味わいが違う。無理やり例えると、小洒落たレストランで出てきたTボーンステーキみたいで、ひねりの効いた付け合わせやオリジナルな前菜や独特のスパイスで彩られて、逆に単純に肉にかぶりつきたい人からすると脂っこさや若干焼きのクリスピーさが足りない、的な何かを感じた。

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(c)2021 Universal studios via "Pia"

本作のスペクタクル以外の要素を付け合わせや前菜扱いしてはいけないのかもしれない。アフリカン・アメリカンの監督の中で最重要人物になりつつあるピールは(自分は白人文化の中で育ったけれど)黒人作家としてのスタンスは揺るがない。本作でも映画史の中でなかったことにされていた黒人の功績をキャストのセリフで語らせるし、牧場主、カウボーイ的な存在という、白人の得意分野みたいに扱われてきた役割は黒人の主人公が担っている。古き良き西部の小さなテーマパークの経営者兼ショーの主役としてアジア系のスティーブン・ユアンをキャスティングする。じっさいの歴史では、非白人のカウボーイは多かったのだ。

それに映像だ。ノーラン作品でIMAXフィルムを扱っているホイテマを呼び、同じIMAXフィルムで撮る。乾いた西部の砂漠と空と、それから古い技術(『吸血鬼』みたいな)をアップデートして撮った幻想的な夜景。カラーリングもすごく品があってまさに高級店の味だ。『ノーカントリー』を思わせるところもある。

 

それから、ネタバレにならない程度にいうと、本作のある意味本質は『映画を作ることの映画』でもある。予告編にあるみたいに、まず兄妹はバズる映像を撮ろうとする。UFOを撮るのだ。そこには本作の撮影とおなじIMAXフィルムのカメラまで出てくる。そもそも主人公の牧場が、映画撮影用の馬を育てていて、かれらも映画産業にいる。映像産業と動物、という世界でもあるのだ。

そういう全てを収めてしかもエンターティメントとして成立させる入れ物としてスペクタクルは確かに機能している。上で書いているようなあれこれは重層的な物語を作っているけれど、小難しく迫ってくることは一切なくて、ちゃんとメインディッシュのインパクトで観客を持っていく作りだ。ただ「焼のクリスピーさが」なんて下手な例えをしたのは、アクションのリズムがそんなに最高じゃなかったからだ。いや映像はいいですよ。でも他がすごくオリジナリティに溢れているのに比べると、クライマックスのアクションの見せ方は、そしてスリルはそこまでじゃなかった。だからぼくの満足はクライマックス以外のところにあった。

 

監督はスペクタクルを撮りたかったんだといっている。劇場に観客に来てもらうために。ノーランもトム・クルーズもそんな使命感でIMAXカメラを駆使して撮っている。TVコメディアン発、3作目の監督だけど、そういうコメントとか映画史を盛り込むところとか、立ち位置をすごく考えている人なんだろう。

舞台になった牧場はFirestone Ranchという映画用なのかな?そんなところ。見渡す限りの荒野の風景だけど、車でハリウッド中心地まで1時間もかからない。まあ60km以上は離れてるけどね。東京と湘南くらいの距離感だ。そんな便利な場所だから、このエリア、Agua Dalceでは大量の映画が撮られている。当ブログでいうと『フォードvsフェラーリ』。確かに抜けのいい空港やサーキットシーンがあった。あと何故か『シングルマン』。小洒落た映画だけど、砂漠っぽいシーンあったかなあ?

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