よこがお

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<公式>

ストーリー:美容院にあらわれた女性、リサ(筒井真理子)は、だれの紹介でもなく和道(池松壮亮)を指名して、別の日には偶然のようにまちかどで出会い、すこしずつ接近していく。リサの本名は市子だった。市子は訪問介護師。評判はよく、担当の家の娘たち、基子(市川実日子)にもサキ(小川未祐)にも懐かれている。 ある日サキが失踪した。拉致だった。無事に帰ってきたサキだったが、やがて犯人が分かると市子の生活にもその余波が襲ってくる.....

ストーリーは公式を見るともう少し分かりやすいです。上のは、ぼくが見たときの、前半、物語の構造をじゅうぶん理解していない印象をそのまま書いている。ここまではネタばらししてしまってもいいと思うけれど、本作は2つの時期を平行して描いていて、慎重に見ればすぐ分かるけれど、最初に明示はしないから、多少の観客の混乱もあえての作りだろう。

深田晃司監督の作品は初めてだ。ぼくはそれなりに映画好きのつもりだけれど、年にそんな本数を見るタイプでもないから、彼の作品みたいなのはつい後回しにしがちなところがある。本作の印象をいえば、描いている世界はミニマルで、ケレン味のある快楽を提供するタイプの映画じゃない。とはいってもお話は明確にサスペンスで「どうなる?どうなる?」で引っぱっていく、十分にエンターテイメントだった。

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物語は、主人公市子が失踪事件をめぐって秘密にしていたある事実にだんだんと追い込まれれ、彼女が想像もしていなかったある人物のこじれた思いに足をすくわれて、ささやかだった人生と生活とが崩されていく様子を描く。そこの市子は真面目で、秘密をめぐる罪の意識に悩み、迫り来る崩壊の予兆におびえる。いっぽうリサは開き直ったように自堕落で、ずっと年下の和道にあきらかにセクシャルに接近する。

ぼくたちはそれを交互に見せられるので、「彼女はどっちの人物? 2面性を隠しているの?」という印象になる。最初にかいた物語の構造のねらい通りだ。時間通りに描けば、それは事件によっておこった彼女の変貌なのだ。

おこる事件は比較的ささやかで、それでも1人の人間を追い詰めるには十分な圧力と破壊なので、見ている方にとっても荒唐無稽なお話じゃなく、なかなかにひりひりする展開になっている。ただ、無事解決した拉致事件のちょっとした裏話がメディアスクラムを引き起こし、TVのワイドショーや週刊誌が連日取り上げる......という展開はリアルじゃなく見えた。描写もちょっと記号的だし、だいたいどう見てもメディアが熱狂するほどの事件じゃない。そうはいっても、ネチネチしたSNSの追い込みじゃ映像にしづらいし、そこはあえて図式化したのかもしれない。

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本作は主演筒井真理子が決まったことで実現した、みたいに監督が言っているとおり、彼女はあらゆる面を見せる。セクシャルな面もまったく躊躇なく描かれ、そのあたりの感触はバーホーベンの『ELLE』にも似ている。いままで彼女を作品の中で見た記憶があまりなかったけれど、わりとニュートラルな雰囲気で、そこがむしろ役柄の広がりを許すのかもしれない。

市川実日子は役柄からいえばもっと年下だが違和感はないし、彼女の異形っぽさと、不思議なイノセントさが、本作のはばを拡げているみたいに感じる。上手な若い女優は他にもいるだろうけど、あの味わいにはならないだろうね。池松壮亮もこの年代ではわりと替えのいない俳優なんだろう。こういう受け身の役もじつによく似合う。

■画像は予告編からの引用

 

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