スパークス・ブラザース

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アメリカ、カリフォルニア発のバンド、スパークスの1960年代末の生誕からこれまでを描いたドキュメンタリー。一つ前の記事で書いた『アネット』の原案がスパークスで、彼らの演奏シーンから映画は始まる。下の動画の前半部分だ。本作は日本でも『アネット』と同時公開。ずいぶん長い間スパークスの名前も曲も聴いていなかったぼくもなんとなく見に行った。

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監督はバンドの大ファン、イギリス人のエドガー・ライト。なぜファンになったかというと、スパークスはある意味母国よりヨーロッパで人気があったバンドで、1970年代にはイギリスのレーベルに所属、イギリスでツアーを回り、BBCの音楽番組でいきなり話題になっていたのだ。テクノっぽいサウンドになりアメリカでも売れたのが80年代。そこから浮き沈みはありつつ今でも現役で50年間だ。

スパークスという表現しにくいバンド、一つ言えるのは「兄弟バンド」ということだ。良くも悪くもスパークス=兄のロン(キーボード)弟ラッセル(ボーカル)で、他のメンバーは時期によって入れ替わる。ギャラガー兄弟とかと違ってこの兄弟はものすごく仲がいい。今でも近所のスタジオに2人で出勤して曲作り、ツアーも当然一緒、これが50年間続いている。

弟はわりとルックスがよくて華もある。ファンが付きやすいのは彼の方だ。曲のコンセプトは主に兄が固め、ステージでも不思議キャラでなんとも言えない存在感を発揮していて、脇役感はない。若い頃はヒトラー風チョビひげでイギリスのTVでは異様な話題になったらしい。戦後まだ30年くらいのヨーロッパでヒトラー風というのは、相当なインパクトだろう。

映画を通して見てると、いい具合に相互補完的で、お互い頼るところを頼りあう感じなんだろうなと思う。キャラクターの打ち出しも初めからそこが分かっていて、若い頃からロンはモテ系に手を出さず不思議キャラで通して、バンド全体でポップな部分と一癖ある部分が共存していたし、老境に入ると枯れそうなものだけど、いまでもステージで動けて声も出るラッセルの元気さが活動を引っ張ってる部分もありそうだ。

スパークスサウンドは時代を通じて変わり続ける。バンド編成から、テクノ系デュオ、クラシカルな音に乗せたポップなど。ぼくはテクノ系の頃ちょっと聴いていた。でも改めてキャリアを通じた色んな曲を聴かされると、自分が聞き続けなかったのも無理ないなとも思った。スパークスサウンドは独特だし、ある時代は相当あたらしかったと思うけれど、そのフレームワークは伝統的な西洋音楽の音階と和声がベースだ。

だからなんというんだろう、時々ある伝統工芸界のアバンギャルド系みたいな味わいがあるのだ。あと、ボーカルのラッセルが主役だから、サウンドは彼の声に規定される。時期によっては、いい例えか分からないけど「カルトかつキッチュなクイーン」めいた部分がなくもない。

https://www.cinemacafe.net/imgs/thumb_h1/552236.jpg

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そんな彼らの映像や写真は子供の頃からちゃんと残っている。10代の学生時代にバンドを始めてからスパークスという名前に変わり、TV映像もライブ映像もMVも。ストップモーションアニメやコラージュのアニメでちょっと目先を変えて見たりもする。間をインタビュー映像がつなぐ。トッド・ラングレンやベック、レッチリ、デュランデュランなども出てくる。やわらかいモノクロの映像で統一していて映像的にはいい息抜きになる。

それなりに売れて、ミュージシャンたちのリスペクトは受けても、大富豪になるようなバンドじゃない。どうやらずっとカルトでマニアックな存在だったみたいだ。10年近くろくな仕事がなく、それでも毎日スタジオで音作りを続けていた時期もあった。売れていた頃の稼ぎを豪遊せずにちゃんと貯金していたのだ。その堅実さや職人的なルーティンのこなし方もなんだかいい。

語り方もあるだろうけれど、後半はなんだか報われた雰囲気になる。フランツ・フェルディナンドとのコラボもあり、ワールドツアーもできて(その時の来日シーンも結構使われてる)しかも夢だった映画制作も実現、「俺たちなんとかいってもやって来れたよな」的空気になる。

ずいぶん昔に見た『アンヴィル』を思い出した。あのバンドもそうだった。長く続けるのに相棒って大事だ。

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