インフィニティ・プール

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ストーリー:売れない・書けない作家、ジェームズ(アレクサンダー・スカルスガルド)はリッチな妻エマと海辺のリゾートに滞在中だ。同じ滞在客のガビ(ミア・ゴス)とアルバンと知り合った2人は、禁じられている敷地外ドライブに出かける。ところがその帰りにトラブルが発生。ジェームズは悪夢のようなトラブルに巻き込まれていく....

2023年、カナダ・クロアチアハンガリー合作。割と見慣れない組み合わせだ。監督はブランドン・クローネンバーグ、デヴィッド・クローネンバーグの息子さん。主演アレクサンダー・スカルスガルドのお父さんはステラン・スカルスガルド、『奇跡の海』『ニンフォマニアック』『ファイティング・ダディ』それに『デューン』。巨漢のおじさんの息子はこれまた相当な長身のイケメン俳優だ。

撮影地はクロアチアハンガリーの2国。舞台になるリゾートやその周辺はクロアチアアドリア海に面したシベニクという観光都市だ。『魔女の宅急便』のモデルで日本でお馴染みのドブロニクから約300km。海岸沿いには大型リゾートが並んでいる。インフィニティプールはないけれど、下のホテルみたいな雰囲気だ。ちなみにここは円が激弱になった今でも1泊30000円以下の部屋からあって、超高級というわけでもなさそうだ。欧米の観光客からすればそんなに遠くないし、案外行きやすいところなのかもしれない。

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あと、唐突にインダストリアルな風景が出てくるところがある。ロケ地は一転してハンガリーブダペストだ。警察署シーンが途中で入る。それもブダペストかもしれない。ハンガリー、強権的かつ排外的な風評ばかり聞こえてきて、あまり行ってみたい気をそそられないけれど、クラシックな都市風景があって撮影にもたぶん協力的なんだろう。米英のメジャーな映画でも市街地ロケでよく出てくる。

こんな風光明媚な場所での休日。でも残念ながら優雅なリゾート映画・・・な訳ない。ビーチリゾートが舞台といえば、最近見たのがシャマランの『OLD』。リゾート+巨大企業の陰謀 という珍しい組み合わせだ。あとは『アフターサン』。夏の間再会してリゾートに泊まる父娘の物悲しいストーリーで、あまり高級じゃないリゾート(けどそこでも贅沢できない)がさらに物悲しかった。

本作の登場人物たちは金には困っていない。そしてリゾート内で行動が完結するから、そこの国がどんなところかほとんど興味がない。本作は監督のドミニカ旅行の体験から発想したらしい。空港からバスでリゾートに直行、周囲はフェンスで囲まれていて、中にはフェイクの街があってショッピングもレストランめぐりもできる。帰りにバスから見た地元の貧困ぶりとの落差に非現実感を覚えたそうだ。これって巨大クルーズ船と近い世界だね。

物語は「自国より貧しい国のリゾートにたむろす傲慢なツーリスト」像をさらにグロテスクに誇張して、その味付けとして『OLD』みたいな現地の奇妙なルールを持ってくる。「死」さえ相対化してしまうようなSF的ルールだ。そのルールは主人公たちの自分というものの輪郭もぼんやりさせてしまう。現実から遊離した時間を過ごしている、金だけはあるツーリストたちは、死とか自己という最低限の現実からも遊離して、そうなると人間らしさからもだんだん離れていくのだ。「旅の恥はかき捨て」ということわざには、そんなニュアンスがうっすらとある。本作の登場人物たちはこれ以上ないくらいにかき捨てていくのだ。

全体のトーンは映像も含めてそこまで洗練されていない。どこかB級感がいい具合に漂っている。物語中で出てくる地元の儀式用の仮面が相当に不気味でいい。旅先で身につける使い捨てのペルソナみたいだ。それが限りなくグロテスク、というのが本作だ。

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(c)Focus features,Neon and Topic Studios via imdb

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