アイアンクロー

 

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ストーリー:必殺技”アイアンクロー”で知られるプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック。引退した彼の息子たちは父のトレーニングの元、1980年代になるとリングにデビューする。次男のケビン(ザック・エンロン)を追い越してまずスターになったのは三男のデビッド(ハリス・ディキンソン)。テキサスのカリスマ一家の兄弟レスラーたちを突然悲劇が襲う.....

おっさん世代は、父フリッツ=名前は知ってる、息子たち=リアルタイムで見てた という人は結構多い気がする。ぼくはプロレスに興味がなくなっていた頃だったからエリック兄弟が日本で活躍していたのもよく知らなかった。ブルーザー・ブロディとかリック・フレアーとかお馴染みレスラーそっくりさんが出演する本作、それはそれで面白いし、分からなくてもしんみりした家族物語を意外なくらい柔らかく優しく描くので、観客を選ばない映画だ。

本作はプロレスという競技の肉体的な厳しさ+純粋競技じゃないエンタメとしての不条理を十分に語っている。ただ「熱い魂と努力で敵に打ち勝った!」的なスポーツ的きれいさの中で割と描いている感じもある。

公式サイトにも実物写真があるように、ビジュアル面、色々と本人たちに寄せている。リング上のアクションも相当トレーニングして再現してるはずだ。そして役者たち。見た目は十分すぎるくらい様になっている。さすがに全体のサイズは小さくて、190cm前後の実物に比べてコンパクトマッチョ系の雰囲気になっているけれど、画面的に間延びしないし感情移入しやすくかえって収まりがいい。

シリアスなレスリングものといえば、どうしたってアロノフスキー監督の『レスラー』の話になる。あちらは架空のレスラーが主人公だけど、試合のつくられ方や自分の体との向き合い方(薬物を常用する維持)や、ある部分は本作以上にリアルな映画だった。そこでもミッキー・ロークが肉体改造して作り上げた巨大な身体が全体を説得力あるものにしていた。

映画の雰囲気でいうと同じレスラーでもアマチュアレスリングのエリート選手を主人公にした『フォックスキャッチャー』を思い出した。主人公マークの「繊細な悩めるマッチョ」像がどことなくケビンに似ているのだ。繊細で悩みつつ、そんなに明晰でもない、どこか子供っぽいところも似た描き方だ。

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本作の主人公は次男のケビン。長男は子供の頃に事故死していて、すごく昔に悲劇のスタートを切っていた。ケビンは大きくなった兄弟の長男役として弟たちには慕われ、でも長男ならではの苦味も繰り返し味わいながら、それでも誰よりも長くレスラー人生を歩んで、今も健在だ。

映画のケビンは黙々と高強度のトレーニングをこなし、弟たちをひっぱり、プロアスリートとしての役割をちゃんと果たす。でもその描き方は、いつまでたってもどこかナイーブな運動部中学生的なそれだ。「口下手」キャラでもあり、マイクパフォーマンスでも、もっと大事な兄弟との対話でも、観客を惹きつけるような気の利いたセリフは発しない。「気持ちはあるのわかるけど、それじゃ伝わらない...」的なもどかしさを常に観客に与える存在だ。不器用な男、というより未成熟な印象に、たぶんあえて描いている。

とつぜん変な話題だけど、本作は全米屈指の「ブリーフ映画」だ。ここでいう「ブリーフ」とは日本語に一番馴染んでいる、そう男子がはくアレのこと。もっといえば「白ブリーフ映画」だ。たしかプロローグが終わって、冒頭いきなり主人公の白ブリ姿が見せつけられる。その後もお母さんに「家だからってブリーフ姿でウロウロするのやめなさい」と言わせてみたり、明らかに印象付けようとしていて、その後も寝起きのブリ姿が映っていたはずだ。

アメリカでの位置付けはともかく、日本での白ブリは精神的自立前の少年が着用する「お母さんが買ってきた服」のシンボル的イメージがある(令和の事情は知らないけど)。思春期を迎えて自意識が育つと色つきだったりボクサーだったりトランクスだったりに移行してくのだ。本作のブリが最後まで白だったかは記憶が定かでない。ただ、大人になっても親の精神的支配を脱しきれず、どこか中学生マインドが残る主人公のシンボルみたいに見えた。

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