アンヴィル 夢を諦めきれない男たち

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公開中にレビューを上げるなんて、この自宅系映画ブログではとってもめずらしい。めずらしいといえばUPLINK(配給会社)がこんなド派手なプロモーションをするのも、めずらしいんじゃないの? オレが知らなかっただけで、最近はこういう社風? で、どうかといえば、一言、いい話です。まちがいなく。ええっドキュメンタリーだろ?これ!?と聞きたくなるくらい見事にまとまったいい流れの話です。

なんといってもキャラクターたちが愛すべき人々すぎる。バンドリーダー、リップスの、ポジティブシンキングもたいがいにせいよ、というくらいの前向きさ。もちろんインタビューカメラがあるから演じ続ける男の姿ではある。でもそれは、何十年も信じる音楽をやり続けるために、無理やり自分の中心に立てた柱でもあるんだろう。柱をぐらつかせるとすべてが崩壊してしまうのだ。それがわかっているから、彼を見守る母も姉も妻も、みんな彼について話すと涙を流す。 

リップスの長年の友人、ある意味もっとも偉大な人物である、ドラムのロブ。リップスが無理やり立てたその柱を40年近く、ものもいわずに支え続け、切れやすいリップスの雑言に耐え続ける。奇跡のような友情だ。そして、彼らの最新CDのプロデューサー(エンジニア?)のCT。彼は何十年ぶりに再会した彼らのレコーディングを引き受ける。ただし制作費として200万円を請求する。これがフェアな金額かどうかは分からない。でもメンバー4人、2ヶ月近く自宅スタジオに滞在させて、一から録音してまともなCD音源を制作して儲けがでるだろうか。僕はそこにハゲデブとなったCTの侠気を見た。まったくマネジメント能力のない女性プロモーターも素敵だ。時に数人しか入らないヨーロッパライブツアーをブッキングして、最終的にメンバーの一人とできてしまう(らしい)。そしてもちろん、バンドの2人の家族たち。

映画そのものの出来は、ちょっと絵面が単調で、ときどきある「撮影用に動いてもらった」カットもたいして効果的じゃない。展開もどことなくエピソードの羅列っぽいせわしなさがある。でも、たぶん今いったみたいな人物像は編集のうまさ、監督の方針でもあるんだろう。なんといっても監督自身がバンドに青春の輝かしい思いでをもらった大ファンだからだ。

映画は、ビッグミュージシャンたちにリスペクトされながらも、今はさえない日常をおくるリップスとロブの姿からはじまり、笑える地元ファンたちとの交流、悲惨すぎて笑うしかないヨーロッパツアー、新作CDのレコーディング、そのプロモーション、そして・・・という流れのあいまに昔話や、家族の表情などがはさまれる。
笑えて、そして泣ける。そう、気持ちよく泣けるのかと思って、見に行った。たしかにじーんとした。気持いい笑いのあとにじーんとする。だけど素直に滂沱の涙をながすには、ちょっと身につまされすぎた。 このストーリーで気持ちよく泣ける人は、たぶんわりと幸せな人だ。

ラストのシーンでは、リップスは相変わらず、今こうしてやり続けていることには意味があるし、成功する可能性があるんだ、とボーカリストの力強い声でにこやかに語り続ける。彼もただのアフォ・ポジティブなわけじゃない。わかってやっている苦労にちゃんと意味を見出そうとしている。でもその隣では嫁がはらはらと涙を流しているのだ。このシーンでつくづくしんみりしてしまった。

映画はここまでで終わる。最高のラストだけれど、本当のサクセスは来ていない。物語は映画の外でつづく。この映画そのものが監督の最高の贈りものになったのだ。映画がサンダンス映画祭で大評判になったのをきっかけにバンドにも再び脚光があたり、映画とセットのイベントが発生したり、メタルフェスにつぎつぎ声がかかるようになって、リップスとロブは何十年ぶりにバンド一本で食えるようになる。これが何年続くのかはわからない。でも、奇跡みたいに見えないけれど、やっぱり奇跡の物語なんだろう。
結論。『善兵衛の<夢を追う系>がしんみりする好編!!』