GOLDFISH & 爆裂都市 40年前のパンクと今と

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ストーリー:1980年代に人気があったパンクバンド、ガンズ。メンバーの1人ハルの傷害事件で活動休止になって30年後、ボーカルのアニマル(渋川清彦)がギタリストのイチ(永瀬正敏)に活動再開を呼びかける。それぞれに暮らしていたメンバーも乗ってきた。パチンコと酒でまったり暮らしていたハル(北村有起哉)も乗り気でないまま参加を決める。曲を書き、練習を始めたメンバーだったが....

1978年結成、一時期はポップな存在で、休止をへて今でも活動しているパンクバンド、アナーキー。そのギタリスト藤沼伸一の初監督作品だ。今「アナーキー」と言われるとラッパーの名前の方が出てくるかもしれない。パンクというジャンル自体、どうだろう、今はエモい歌詞が乗ったバンドサウンドの1スタイル的な意味なんじゃないか。映画は自分たちの出来事を元にしたフィクション。実際にメンバー逸見泰成は殺人未遂で実刑になった。彼は2017年に亡くなっている。

物語はアナーキーそのままの一瞬輝いたバンド、完全におっさんになったメンバーたちのぱっとしない現在と、活動再開に向けて昔のわちゃわちゃした感じを取り戻しはじめる姿を描く。そんな楽しそうなかれらと、活動休止の原因になって、もう昔のことは忘れたいハルとのコントラストが中心だ。ところどころに「ロックの死神」的存在(町田康)が亡霊みたいにあらわれる。

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(c)2023 GOLDFISH製作委員会 via 映画.com

ひとことでいうと、正直な映画だと思う。恰好つけてない。映像をスタイリッシュに今風に作り込むこともしないし、登場人物たちをクールに「わかってる」感じにもしない。アニマルの能天気キャラなど、コメディの芝居なんだけど、例えば今のお笑いの現役はこの感じは出さないだろう。いかにも古い「日本映画のコメディ演出」風に見えてしまう。渋川清彦は『偶然と想像』の、味のある文学者役からはそうとう距離がある芝居っぷりだ。

唯一恰好良さを保つ係の永瀬正敏は、抑え目のセリフ回しで枯れたミュージシャンの雰囲気をかもしだしている。でもアニマルと絡むと「バーカバーカ」みたいになりだすし、たまに出る「オレたちは操られていた」的なセリフも真っ正直すぎて、せっかく枯れた雰囲気なのにどこかナイーブな感じがしてしまう。

藤沼監督のことはほとんど知らなかった。インタビューとかを聞くとミュージシャンでありつつ社会活動もしている人で、アクティブでありつつ十分「見えている」タイプという感じだ。自分たちの物語を、若い頃の栄光再び...といまパンクバンドを再開する物語を、いかにも恰好良さげに描いてしまうと逆にどうしようもなく恰好悪い、それを分かっていての撮り方なんだろうと思う。パンクスもしょせんはエンタメど真ん中の芸能人と同じ、見せ物としてだけ機能する金魚=GOLDFISHだ、という視線だ。ハルについてくる親衛隊、すっかり意識も変わっている今の彼に大昔の幻影を重ねてまとわりつくファンの、ある意味トクシックな感じもそれとなく描いている。

バンドメンバーたちに若い女性を1人も寄り添わせなかったのも見識だと思う。そんなLEON的、イケオジ的幻想をこの物語に重ねていたら目も当てられないことになっていただろう。周囲の女性登場人物は、メンバーたちに相応の人々だ。ハルを支える恋人役有森也実の「ずっとロックが好きで生きてきた」雰囲気はすごくいい。

唯一登場する若い女性、イチの娘役、成海花音の80年代感の再現には一番驚いた。髪型と顔の組み合わせといい、やっていることといい、当時のニューウェーブ系のミューズの感じがすごく出ている。若い頃の塚本晋也とかがいかにも好きそうな雰囲気だ。

 

 


■爆裂都市(バースト・シティ)

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<東映ビデオ>

パンク全盛期、1982年のパンクムービー。石井聰亙(現石井岳龍)監督、『マッドマックス』『ニューヨーク1997』的な世界と、パンク系バンドとファンたちの雰囲気をミックスして、ダークな資本家や武装警察を敵役に置いたディストピアSF的物語だ。主要キャストは俳優じゃなく、当時人気のロッカーズルースターズのメンバー、それに『GOLDFISH』にも出ていた町田康(当時はINUのボーカル、町田町蔵)やスターリン、作家兼アドベンチャー系バイカーの戸井十月、そして泉谷しげる、といった人々だ。

演技らしい演技をしているのは泉谷しげるくらい。ロッカーズ陣内孝則はパンクというよりはその後芸能界に転身していきそうな雰囲気がすでに漂っている。撮り方も相当にカオスで、東京郊外に作ったオープンセットで大量のエキストラが暴れ回る。一部8mmで撮った映像の粒子は荒くて、カメラは常にぶれまくり、断片的なカットのコラージュみたいな映像だ。

ところで、いまはじめてアニメ『AKIRA』を見る人は、SF的都市の描写にはうなっても、金田たちやライバル暴走族の独特なファッションやノリに「何だこれ?」と感じる人もいるかもしれない。その源流は実はここにある。完全に同時代のセンスなのだ。マッドマックスやロンドンのパンクに影響を受けつつも、いま以上にアジア的制約を感じる身体。

当時の「ふつうの風景」を描いた映画だと、かえって地域や時代をこえた物語の共感ポイントに気持ちが行くかもしれない。でもこんなサイバーでパンクなテイスト全開で撮るからこそ、キャストも、セットに映り込む風景も、暴走する車両も、どうしようもなく滲み出るローカル感がむしろ味わいになる。都市近郊の未来的スラムの描き方はその後の『スワロウテイル』にもどこか影響しているかもしれない。

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