アルマジロ

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2010年、デンマークの作品。アフガニスタン国内、NATOISAF(国際治安支援部隊)の、アルマジロと呼ばれる基地に派遣されたデンマーク兵士たちに密着して撮影した、戦場のドキュメンタリーだ。兵士たちの派遣期間は数ヶ月程度。映画では何人かを主人公役にして、出発から帰還までの物語にまとめている。こんな兵士たちだ。

アフガニスタンISAFは、アフガン紛争がおこった2001年から2014年まで現地に駐留した。主な目的は治安維持と、アフガニスタン政府の治安維持部隊の立ち上げ・訓練などだ。NATOのページがここ。最盛期は各国あわせて50,000人以上が駐留していた。ISAFが終了した2020年の今でも、支援のためのRSAという名称で16,500人が駐留している(NATOのレポート)。デンマーク軍は2009年は700人くらい派遣していた。

「物語」は、出発前の家族の夕食シーンからはじまる。重苦しく悲観的な空気にみちている。嘆く家族たちのまえで、若い兵士は「他ではできない経験になる」みたいなことをいう。それからコールガールを呼んで、兵士たちの出発前最後の乱痴気騒ぎ。

基地につくと、そこはもう前線だ。外には住民もいるけれど、敵であるタリバンもすぐ近くに潜入している。ミッションは基地での作業やパトロールがメイン。兵士たちにとっては退屈な日々だ。でもある時戦闘が始まる。歩兵同士の銃撃戦だ。

撮影は監督自身とカメラマンが複数のカメラを使っている。基地では監督ともう1人が撮影をつづけ、戦闘に出る兵士4名にもカメラを預け(たぶんヘルメットに小型カメラを固定して)、戦闘中のシーンも撮っている。映像を見るとカメラマンも帯同している。

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本作、公開後には高い評価も得たし、同時にけっこうな議論のまとにもなったそうだ。詳しいところは伏せるけれど、見れば「これ公開したらまずいんじゃないの?」と思うようなシーンが後半にばんばん出てくる。それでいて映像はものすごくスタイリッシュだ。編集も、映像加工も、BGMの入り方も。

一見した印象だと、キャサリン・ビグローのリアルな戦争もの、『ハートロッカー』『ゼロダークサーティー』と違わない。主人公級のキャラクターを立てていることもあって、あと構成の妙もあって、よくまとまったドラマそのものなのだ。

登場人物もフィクションみたいなバランスとビジュアルだ。小柄で眼光が鋭いまじめそうな兵士。タトゥーを入れて背が高く、見るからにワルそうな兵士。いじめられやすそうな、アジア系の兵士。かれらを指揮する上官。そして戦闘シーンの完成度の高さ。主観ショットもあれば、全体を説明するような引きの絵もあるし、兵士同士の無線音声もクリアに入る。そして戦いの後のシーンも。

軍の協力のもと撮影隊が従軍して、前線での兵士の日常や戦闘シーン、そしてその後の現実を記録する…100年前からそれはあった。第一次大戦フランス戦線の英国軍兵士を撮った『彼らは生きていた』はまさにそうだ。写真家ロバート・キャパスペイン市民戦争で撮った有名すぎる写真、これも戦場にいなければ絶対に撮れない。

だから、カメラマンが戦場に肉薄するのはめずらしくない。でも銃撃戦の真ん中に入り、まして兵士にカメラを装着するというのはなかなかだ。もし彼らのだれかが死傷したら?  …戦場じゃなくても兵士たちのわりとプライベートな会話を撮ったり、ふつうなら隠しておくような対話も記録される。「カメラちょっと出ていて」といわれてもおかしくない。

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そんな映像が撮られただけじゃなく公開されているのだ。おなじドキュメンタリーの作家、想田和弘は「奇跡的な撮れ高だ」という。そしてデンマーク国内の、派兵に反対する勢力のバックアップがあったんじゃないかとコメントしている。撮影やスタイリッシュな編集については、監督のインタビューがわかりやすい。監督はたぶん自分の内面も現場もぎりぎりの所まで踏み込み、ぎりぎりの所まで出した。そんな作り手と、デンマーク軍、政府、メディアを含めた環境全体が本作を作らせたといっていいんじゃないか。

デンマークの兵士は、14年間の派兵で42名が死亡した。派遣した人数あたりでいうと、各国軍のなかでも高い比率らしい(もちろん米英軍の犠牲者はずっと多い)。とはいえ殺傷したタリバン兵はもっと多いだろう。それから民間人も。帰還した兵士の多くはまたアフガンに戻りたいという。

基地があった場所は細かい情報はない。デンマーク軍は主にヘルマンド州という所に駐留していたそうだ。首都カブールから700km〜。アフガニスタンの風景って想像つかない。映像で見ると、乾燥した沙漠めいた場所で、川に近いところは植物があり、たぶんその周辺に農地があり、日干しレンガでつくられた塀でかこまれた住宅がならんでいる。アフガニスタンに援助にいった日本人が前にどこかで書いていた。ソビエト侵攻から延々と続く戦乱の時代の前は、一面に森や農地がひろがって、果樹が生えているような、のどかそのものの農村の景色だったそうだ。

■写真は予告編から引用

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