彼らは生きていた They shall not grow old

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第一次大戦のイギリス軍の戦場の映像と、帰還兵のインタビューを重ねたドキュメンタリー。「100年前の戦場に、そこにいたかのような映像体験をしてもらう」意図でつくられた、つまり『1917』とおなじねらいの映画だ。この2つ、共通点が多いのだ。どちらもエンターティメント作品で巨匠になりつつある監督、本作はピーター・ジャクソン、1917はサム・メンデスの作品で、どちらも、監督のおじいさんが第一次大戦に従軍経験があって、彼への思いが製作の動機になっている。

公開年は1年ちがいとはいえ、まるで関連企画みたいだ。なんだろう、ちょうど終戦から100年たったというのもあるんだろうか。イギリスやフランスでは第二次世界大戦の犠牲者より第一次大戦の犠牲者のほうが圧倒的に多い(どっちもWikiだけど参考までに)。国の記憶としては相当に大きい大戦の記憶をいま甦らせようっていう空気はあるのかもしれない。

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本作でぼくたちが見る映像はすべて当時撮影した記録映像だ。なんとなく雰囲気が想像つくでしょう?こういう感じだ。この映像に入っているあるシーンは本作にも出てくる。でもこんな感じのを延々と見せるわけじゃない。

「記憶の解凍」というプロジェクトがある。『この世界の片隅に』で描かれていた戦争前の広島の人たちの思いでや写真を追体験できるARアプリだ。写真はAIを色んなデータで補正して実際に近いだろう色をつけカラー写真にする。古い白黒写真に後から色をつけるのは「人着」とかいって昔からあった。こっちクオリティが断然高く、そうすると意外なくらい写真のなかの人たちが今のぼくたちとつながった世界の住人に見えてくるのだ。プロジェクトリーダーの渡邉英徳教授は広島以外でも第二次大戦期の写真や戦前の沖縄の写真を着色している。

 本作でやってるのも同じだ。フィルムの動きを自然でなめらかなものに変え、ノイズを消し、自然な色に着色する。そうすると......同じだ。100年前の映像が、どこか現実感のない、遠い世界の映像から、ぼくたちの世界とつながったどこかの出来事に見えてくるのだ。

どこか抽象的だった映像のなかの若い兵士たちが、現実世界でイギリスに暮らしている誰かに見えてくる。そしてBBCによる膨大なインタビュー音声が音を整えられてナレーションのようにかぶさる。これは本当に地続きの世界にいる、イギリス人にとっては相当に強烈な体験だろう。ぼくたちにはなんとかいっても少し距離がある。

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記録映像のつなぎあわせだから、だれか1人にフォーカスしているわけじゃない。でも構成は新兵の応募から入隊、イギリスでの訓練、フランスの戦場、戦闘、そして終戦、帰還....という順ですすむから、1人の兵士の経験の追体験みたいになる。

印象的なのは戦闘が悲惨になるまえの戦場の風景だ。監督はわざとのんびりした映像をまとめて見せる。前線の塹壕では土木作業がメイン。週に何日かの勤務が終わると休暇で後方に帰れる。そこでは食べ物も紅茶もあって、フランスだからワインだって手に入れることができる。兵士たちは汚れた軍服をきれいにして、若者に戻り、のんびりと過ごす......

イギリス兵は第一次大戦で約100万人死んだ。国家的な悲劇の記憶だろう。それでも戦場にはそんな風景もあったのだ。

本作はイギリス本土で志願しフランス戦線に送られた兵士にフォーカスしている。もちろん他国も、他の戦場も似たような世界があっただろう。監督は「この体験は他のどんな国の兵士たちにも置き換えられる」といっている。

■写真は予告編からの引用

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