WW2 戦車戦2本 その2  フューリー

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ストーリー:1945年4月、ドイツ戦線。戦争終結まであと1ヶ月でもドイツ軍の抵抗は激しかった。「フューリー」と名付けたM4戦車の戦車長ドン’ウォーダディ’コリアー軍曹(ブラッド・ピット)。部下の乗員たちと戦線を生き延びてきた。欠員の補充として初年兵のノーマンが乗り込む。戦場に抵抗があるノーマンを鍛えながら、ウォーダディと4人のチームは強敵ティーガー戦車や親衛隊との戦いに向かう...

戦車映画つながりのつもりで見始めたら違ってた。戦争映画だったのだ。『T-34』で描かれなかった全てが前面に出ている。まず極端に画面に映る死体が多い。戦場に放置され、輸送車に山積みにされ、重機で穴に放り込まれ、ぬかるみに倒れて泥にまじって戦車に踏まれる。抵抗戦に参加しないドイツ人は親衛隊に町中に吊るされる。戦闘による体の損壊もいたるところで映る。戦争を熱いゲーム的には見させない。『プライベート・ライアン』型とも言える。戦闘シーンもつねに生身の兵士がいるし、市街戦では市民が巻き添えになる。

監督デヴィッド・エアー作品は『エンド・オブ・ウォッチ』だけ見てる。すごく共通するところはあった。LAの凶悪エリアを巡回する警官コンビを描いた『エンド』も死の危険がある任務で家族を超えて結束するチームを描いた。本作も語っているのはそこだ。軍人家族で自分も軍務経験があるエアーは命の危険を負って社会を守る人々にすごく敬意を払う。

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戦車兵チームにいつも聖書の言葉をいい、お祈りを欠かさない’バイブル’(シャイア・ラブーフ)がいる。そのほかにも聖書めいたイメージが何度も出てくるし、ロマン主義の絵画みたいなドラマチックかつ品のある撮り方が多くて、それこそFURYという言葉どおり、神の怒りのように敵を殲滅する戦車兵たちは崇高な存在に見えてくる。クライマックスでは自分たちを聖書の一節にある犠牲者にかさねて見せるくらいだ。

でも美しいだけのヒーローには描かない。ウォーダディはナチへの憎悪に取りつかれて野蛮な兵士になることもある。街を占領すると兵士たちは欲望むき出しになる。ウォーダディは未経験の初年兵ノーマンにいろんなイニシエーションを与えて急速に「男」に仕上げていく。完全に父と子の姿だ。もちろん清く正しい男じゃない。この辺り、物語的にはすごく短い間のはずだけど感覚的にはそこそこの時間が経過している描き方だ。全体にそんな感じで『T-34」みたいにシンプルに片方のチームを応援して試合を見るような映画じゃない。

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いっとき平和な時間、ウォーダディがノーマンのようすを横目で見ながら含みのある表情をしたりしているシーンがすごくいい。タフな父が息子を見るとしたら正面から覗き込む感じだろう。あんまり横目で相手を見たりしない。そこにふつうの父感もあるのだ。ピットの厳父役といえば『ツリー・オブ・ライフ』の父親があった。本作は軍人だからもっと荒々しいが、父としての優しさや柔らかさはむしろあるかもしれない。

本作は主演のブラッド・ピットにかなりの部分負っている。ピットは例によってプロデュースにも参加している。佇まいや時々見せるなんともいえない表情、やっぱり目をひく。でもなんとか言ってもウォーダディは正しいヒーローなのだ。最後まで美しい。戦場のベテラン(食糧事情だってそんなに良くないはず)の割にマッチョすぎるのも微妙だ。

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ひょっとするとそのせいで時々バトルシーンが少し嘘くさくなってしまったかもしれない。特に見せ場の戦車vs戦車バトルと戦車1台vs親衛隊300人バトルには、ミリタリーファンたちの激烈な怒り、文字通りフューリーが巻き起こってしまったらしい。色んなレビューを見ても、ドイツ軍対戦車戦術のエキスパートの皆様による罵倒の声が乱舞している。

「本物のティーガー戦車・M4戦車登場! リサーチに基づくリアルな戦闘シーン!」的打ち出しはあったしなあ。野球映画の試合シーン、バンド映画の演奏シーンに「これはないわ・・・」というのがあったら野球や音楽ファンは許せないだろう。確かに親衛隊バトルではウォーダディが若干ランボー化して無双かつ不死身感さえ滲み出るようになるあたり、見せ場なのは分かるけどどうだかな、という感じはしてしまった。ただ、機銃弾が光線みたいに見えるのは史実どおりで射手が弾道を見られるように閃光弾が入ってるらしい。セリフでもそんなことを言っていた。

というわけで若干どっちつかずの感慨が残って荘重な音楽とともにクレジットロールになった。でもなにか反芻したくなるものは残るね。ロケ地はイギリス国内。映画で使った実物ティーガーが英国内の博物館収蔵品なのも関係あるのかも。

■写真は予告編からの引用

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