エクソシスト3作 ヴァチカンのエクソシスト&ザ・ライト&汚れなき祈り

エクソシスト。悪魔祓いをする聖職者のことだ。1973年の大ヒット作品のおかげで東洋の子どもたちにまでこの言葉は知れわたるようになった。突然悪魔祓い関連の3作を一気見したのでご紹介。

🔷ヴァチカンのエクソシスト

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ストーリー:スペインの古城。リノベーションして転売しようとしていたアメリカ人女性は娘と息子を連れてやってくる。その夜息子がおかしくなる。地元の司祭では手に負えず、ヴァチカンから1人の男がスクーターではるばるスペインまでやってくる。彼こそ高名なエクソシスト、アモルト神父だった....

2023年公開。主人公のガブリエーレ・アモルトは2016年に91歳で亡くなった、ローマ教区の司祭、世界的に有名なエクソシストで、国際エクソシスト協会の設立者でもある。ちなみに国際エクソシスト協会は本作に超批判的で、わざわざ公式ウェブサイトで批判コメントを掲載している(追記。と思ったら消えてしまった.....)。とはいえ本作は彼が遺した書籍『エクソシストは語る』を元にしている。

本作、どうみてもシリーズもののヒーロー映画の第一回だ。ラストがバディに向かって「一緒に地獄に行こうぜ!」なんだから。敵は激怒と情欲の魔神、アスモデウスだ。ラッセル・クロウが演じる黒づくめの巨漢ヒーローはヴェスパで軽快に移動する。ホラーとして見ると少々軽い。ホラーに必須の「不吉」「不穏」の引っ張りがほとんどないのだ。悪魔に憑かれる少年は、明らかに不吉な顔立ちであやうい予感を漂わせると、観客がセクシーなお姉さんに気を取られている間にあっという間に悪魔に憑かれて目つきが変わり老人のような声になってしまう。

神父のヒーローといえば『薔薇の名前』。ショーン・コネリーが探偵として修道院の陰謀を解決する。ラッセル・クロウもコネリーと同じように程よく年齢を重ねて滋味を漂わせて、古城の忌まわしい歴史や教会の血なまぐさい過去を悪魔と絡めながら掘り起こしていく。元祖『エクソシスト』へのオマージュもちゃんとあり、娘がクモのように四足歩行するシーンが用意される。

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バトルシーンはかなり派手だけど、エクソシストものの領域にぎりぎり踏みとどまっている。戦いはひたすらに祈りの言葉と十字架で行われるし、教会や信仰の大事さが途中で語られる。神に仕えるヒーローたちにも過去の悔いや罪の意識がバトルの中で前面に出てくる。エクソシスムで常にささやかれる、悪魔憑きは妄想や精神疾患じゃないかという疑念のシーンもちゃんとあって(だから悪魔祓いの規則にもなってるらしい)バランスを取っている。

 


🔷ザ・ライト エクソシストの真実

ストーリー:葬儀社を営む父と2人家族だったマイケル・コヴァックは神学校へ進むが自分の中に信仰心がない。師の勧めでローマのエクソシスト養成講座にゆき、名高いエクソシスト、ルーカス神父につくがエクソシスムには懐疑的だ。1人淡々と悪魔憑きに向かうルーカス神父は....

2011年公開。こちらも実在のアメリカ人神父、コヴァック師の物語。『ヴァチカンの...』に比べるとより実話らしい仕上がりだ。主人公は懐疑派の青年で、自分の信仰心にも疑問を持っている。観客の「どうせインチキ話だろう」という視線を主人公に先取らせているのだ。さらに養成講座に参加している聖職者でもない女性ジャーナリストをヒロインに置いて、彼女もエクソシズムを相対化するポジションだ。

つまり現世側の若い主人公たちがエクソシズムという未知のオカルティックな世界へ足を踏み入れる、冒険ストーリー風になっているのだ。「未知」の側になる異端の神父をアンソニー・ホプキンスが演じる。

主人公は「悪魔憑きは精神疾患」「医療のサポートが必要でしょう」と訴える。それでも現実に目にするあれやこれに....という感じ。ちなみに悪魔憑きの描写は『ヴァチカンの』とだいたい共通だ。目がゾンビ化し、不気味な声になり、皮膚が爬虫類みたいになり、そして面白いのは主人公のメンタルを揺さぶろうと下品な言葉を繰り出す。

本作の悪魔はバール(バエル)ヒキガエルの姿で現れることもあるという。その連想だろう、本作でも悪魔絡みのいろんなシーンでカエルが大量発生する。

 


🔷汚れなき祈り

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ストーリー:ルーマニアの孤児院で一緒だった2人の若い女性。1人は丘の上にある修道院に入り、もう1人は養父母とも馴染めず、ドイツに渡って仕事に就こうとするけれど、親友を求めて帰ってくる。けれど彼女は修道院の独特な習慣や思想になじめずに徐々に精神のバランスを崩していく...

2012年公開のルーマニア映画。本作は実際に2005年にルーマニアであった、若い女性が「悪魔憑き」とされて悪魔祓いの儀式を受けたあげく急死した事件をヒントに作られたフィクションだ。流れで見たけれど、エクソシスムへの興味で見るタイプの映画とはだいぶ違った。身体にもメンタルにも問題を抱えていて、現世の社会での医療というシステムからも見放されてしまった女性。修道院は現世の社会では生きにくい女性たちの避難所でもある。でも正教会という信仰のルールの中で生きなければいけないし、その中心には神父がいる.....そんな話だ。

監督は『4ヶ月、3週と2日』のクリスチャン・ムンジウ。共産主義政権末期のルーマニアで政治の圧力に押しつぶされかけながら生きる2人の女性が主人公だった。寒々しくリアルなルーマニアの女性の姿。本作も主人公は孤児院で一緒だった2人の女性。だけど1人は修道院のルールと神への信仰を選び、2人はもう一体じゃないのだ。

ただ、2人を押しつぶすのは修道院ではない。小さく貧しい修道院も強者の側じゃなく、神父も厳格だけど、できることはとても少ない。暴れる女性を押さえつけて悪魔祓いのために縛り上げるのが、全員女性たちだという描写の哀しみ。

モデルになった事件の舞台はルーマニア東部の山岳地帯、モルダヴィアの田舎らしい。撮影は首都ブカレストから100kmくらいの小さな街、クンピナだ。街を見下ろす草原の丘に、壮麗とはとてもいえない修道院が立っている。ルーマニア東部は木造の教会で有名だけど、本作の修道院は小さな小屋めいた木造建築が集まっているだけだ。そういうものなのか、撮影の都合(撮影用セットだから)なのかはわからない。こんな感じの丘だ。