<予告編>
東宝の夏の大作『東宝8・15シリーズ』の第5作、1971年公開。毎年夏に公開する、第二次大戦モノだ。『日本のいちばん長い日』が第1作。このシリーズ、会社あげての大作だから、毎年の興行収入も邦画の中では1〜2位にランクインする。そんな中で本作は寅さんに1位をゆずり年間4位(参考)、とはいえ数字的にはシリーズ6作中トップだ。
沖縄戦をほとんど美化せずに描き、それどころかかなり凄惨な描写をぶつけてくる本作は、メジャーが堂々と製作し、結構な観客が見に行ったヒット作だったのだ。日本で、今このトーンでの大作ありえないでしょう? ぼくは近年の戦記ものはまったく見ていないから、どんな傾向が主流か具体的に言いづらいけれど、でもないだろうということくらいは分かる。
ちなみにさっきの参考サイトで見ると、3位はやっぱり戦記ものの『戦争と人間 愛と哀しみの山河』、この作品は見てない。巨匠山本薩夫監督の大河ドラマ3部作の2作目だ。軍閥や満州での日本軍の行動を描きつつ、メロドラマでもあるようだ。本作はナレーションやテロップを多用し、沖縄戦にくわしくない観客にも事実関係を理解させるつくりで、じつに分かりやすかった。部隊の移動も地図を見せられるから無理なく位置関係も分かる。
画面は大作だけにチープさはあまり感じない。まず人を潤沢に使っている。シーンによっては結構な大人数を動かして撮っている。戦闘シーンでは米軍のM41戦車をそこそこの台数走らせて(いくつかはハリボテ)、もっと大規模なシーンは記録映像を挟む。空襲シーンとかは一部円谷特撮チームの映像もある。洞窟陣地では実地ロケも多そうだ。
あと、キャストの顔力と厚み。『日本のいちばん…』でも好演した小林桂樹が沖縄の駐留部隊司令官。強硬派の参謀長が丹波哲郎、知性派の高級参謀、事実上沖縄戦の戦略を立てた大佐が仲代達矢。それ以外、池部良や加山雄三、田中邦衛、それに岡本喜八作品の常連俳優たち。軍医役の岸田森が格好いい。
本作はカラー撮影だ。『日本の一番長い日』はまだ白黒だった。このあたり、クラシックムービーの微妙なところで、カラーだとかえって古臭く見えてしまうところもある。シーンによってはいかにも70年代邦画を感じる。出演者たちの顔が全員テラテラに光って見えるところとか、爆薬の炸裂シーンの煙とサウンドとか(これは当時の名物特技監督、中野昭慶の特徴)、爆薬でやられる兵士たちのすっとび具合とか、『新幹線大爆破』にも通じる、日本映画ならではのアレだ。
だけど本作は他の戦記映画とだいぶ違う。それは画面に写る死者の数だ。まず、冒頭でサイパン陥落から戦線が南西諸島に迫ってくるところを記録映像とナレーションで説明する、ここから戦死者の映像をたたみかけてくる。「覚悟はいいね?」と言ってるみたいに。第一次大戦の記録映画『彼らは生きていた』では最終盤に見せてきた映像だ。中東戦の惨劇を題材にしたアニメ『戦場でワルツを』でも最終盤に実写記録映像を見せた。それなりに衝撃があるイメージだ。本作はそれをいきなり見せる。
序盤はおだやかだ。記録に忠実に、時系列で起こったことを見せるから、軍上層部が兵員を増強して、司令官が交代し、参謀が作戦を立て、防衛の陣地をつくり....と進む。すこしタレないでもないけれど上層部の方針や錯誤で、敵が来る前にだんだんと条件が悪くなっていくのが理解できる。
米軍が上陸し戦闘がはじまり、休憩時間をはさんで後半は負傷者と死者で画面が埋め尽くされる。必要以上のスプラッター描写はないけれど、まったく美化してもいないしぼかしてもいない。アメリカ軍は徹底して抽象的な「敵」で、個人としては描かれず、表情もわからない。だいたい、使っているエキストラのせいか、混戦状態だと日米の兵士の区別がつきにくい。戦闘シーンではアメリカ兵も戦死しているけれど、血を流し、手足を失いうめいているのは日本人たちだ。
本格的な地上戦は1945年の4月から6月までの約90日くらいのできごと。日本側は約20万人、アメリカ側は約2万人が死亡した。正面から描けばこうなる。でもね....つくづくこれを夏の大作でやり切っていたのが凄いよ。監督の資質だけじゃないだろう。1971年、沖縄返還の1年前だ。
ちなみに最初に軍の地下司令部があったのが2019年に火災にあった首里城。そこから撤退した最後の陣地、摩文仁の丘まで、今のルートだと約17km、道がよくて健康な人だったら大した距離じゃない。でも劇中で描かれるけれど、その距離が移動できなかった人たちは、少なからずいた。
■画像は予告編からの引用