26世紀青年(Idiocracy)

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<予告編>

ストーリー:2005年。米軍は極秘に人口冬眠実験を行った。被験者は軍勤務のジョー(ルーク・ウィルソン)と民間人のリタ(マーサ・ルドルフ)。1年後に目覚める予定だったが不幸な事故がおこり、2人が目覚めたのは2505年だった。500年後のアメリカには1つ問題があった。長年のあいだに平均的な国民のIQが低下を続け、いまや全国民がバカになっていたのだ。はじめは犯罪者扱いだったジョーはそこでは大天才。すぐにホワイトハウスに招かれて.....

2006年のアメリカ映画。監督はマイク・ジャッジ。『Beavis and Buthead』『King of the hill』というアニメで知られている。どっちもあまり見たことなかったけれど、Beavisのキャラは一時よく見かけた。

youtu.be

本作は実写のコメディ。すごく軽く見られるお笑いムービーだった。時間も短いし、笑いも、それから映像も、どすんと来る要素はない。この映画、字幕付き(吹替えも)で普通に配信で見られる。でも公開時の興行収入は5000万円もいってない。おどろくべき少額だ。配給のFOXがしばらく塩漬けにしたあと、ものすごく小規模館数で公開し、まともに宣伝もせず、すぐに終了した。日本ではもちろん未公開。

理由は、公開前の試写で評価が最悪だった、という話もあるし、いろんな実在企業をそのまま出して笑い者にしてるのでリスクを恐れた、ともいわれるし、FOXを正面からバカにしたからだ、FOXのメインターゲット層を笑い者にしているからだ....いろんな説があって、真実は知らない。

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本作は、SFタイムトリップものの形を借りて、アメリカのある種の文化、ある種のひとびとを思い切り笑い者にしている。文明の進歩的な描写は大して力が入っていない。ほとんどの人がバカになってしまったから、進歩は止まっているのだ。だからSF的にいえばややディストピア系になっている。「荒廃した未来」系だ。

本作が引き合いに出している『Wall-E』のように廃棄物が山脈になっている。『ブレードランナー2049』みたいに街はゴミゴミとして大型サインだけが目立つ。しょぼい車が走り回っているのは『ゼロの未来』とも似てる。『Wall-E』と似てるのは、人々が思い切り退化してることだ。

本作の未来人たちは、よくまあ集めたなというくらい、見た目からして頭が良さそうに見えない人たちで、全員間延びした頭の悪そうな口調でしゃべり、ところかまわない下ネタでげひげひと笑う。ド派手な色彩の奇妙な模様が入った、ポリエステル感あふれるシャツやパンツをゆったりと着こなす。

基本的にこの退化ぶりが笑いのネタであり、ちょっと真面目なテーマであり、というか全てだ。原題は『Idiocracy』、「バカ制政治」とでも言うのか、公開から10年以上たって、アメリカではある意味完全に現実になった。ちょっと前のニュースでGoogleのCEOが議会に呼ばれたというのがあった。そこで委員長が質問する。「Googleでidiot(バカ)でサーチするとトランプ大統領がヒットするのはなぜ?」

たしかに出てくる(まぁ上のニュースが出て来てるんだけど)。

本作の設定のキモは、「IQが高い人たちはあまり子供を作らない、アホはやたらと再生産する」という日本でもおなじみの説だ。日本だと「アホ」までいかないかもしれない。マイルドヤンキーとかだ。2505年のアメリカ人たちが、どの程度今のアメリカのあるあるなのかは、実際にアメリカの地方都市や郊外に住んでみないと分からないだろう。ぼくもよく分からない。

この世界ではコストコはさらに巨大化した神殿みたいな場所になり、ファストフードはさらにバカっぽい店名になり、スターバックスはなぜか風俗になり、飲料会社が経済を支配して、水のかわりになっていて、FOXテレビはさらに下世話なニュースショーを流す。しかし飲料会社が支配して水をまともに使わせない、というのは今の水をめぐる企業支配をちらっと見せている。

とまあ、そんな風刺や、お蔵入り伝説もあるけれど、見た感じとしてはそんなエッジーでもない。とことんアホ笑いにすることで毒を薄めているみたいな印象だ。主演ルーク・ウィルソンウェス・アンダーソンと一緒に作品を作っていたオーウェン・ウィルソンの弟。ヒロインのマーサ・ルドルフは、ウェス・アンダーソンのパートナー、2人そろってどことなくウェスがらみなのはなんだろう。2人とも絶妙に美男美女でもなく際立つ個性でもなく微妙な年代で、味わいだけがある。

■写真は予告編からの引用

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