90年代と小沢健二と女の子(その1 Sunny 強い気持ち・強い愛)

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<予告編>

ストーリー:夫と高校生の娘と暮らす奈美(篠原涼子)は病院でぐうぜん旧友と出会う。高校生の時の親友、芹香(板谷由香)だった。20数年ぶりに合う芹香は末期がんで余命1ヶ月だった。芹香の頼みで高校時代の親友グループ〈Sunny〉の仲間たちを探す奈美。高校時代、90年代半ば、無敵の女子校生だった日々がよみがえる....

韓国映画Sunny』のリメイク。大根仁監督、2018年の映画だ。韓国映画のリメイクといえばこの前書いた『怪しい彼女』、どっちもプロットが強い作品だ。過去と現在を行き交う物語の構造が明快だし、コメディと確実な泣かせがきっちり用意される。音楽が物語に効果的に組み込まれて、女優の可愛さも存分に見せ所がある。

本作は『怪しい彼女』ほど忠実なリメイクじゃない。基本的ストーリーはまったく同じで、場面展開やキャラクターもオリジナルをすぐに思い出すような作りだ。ただ、Sunnyのメンバーは7人から6人に1人減っている。あとは大根監督が『モテキ』でも見せていた、ストーリーからはなれた集団ダンスシーンが入ってきたりする。

いちばんの違いは「時代」だ。オリジナルは現代が2010年頃、高校時代が1987年の韓国。本作は現代が2010年代後半、高校時代が1990年代半ばの日本、東京・横浜あたりだ。オリジナルでは少し自由の光が差して来た、まだ消費文化も洗練される前の時代の青春。本作はバブルははじけたものの明るかった(し、自由のことなんかその辺の人はだれも心配していなかった)、ヒットソングが誰でもおなじみだった、女子校生最強時代の青春だ。そこが、オリジナルと本作の雰囲気をだいぶ変えている要素の1つだと思う。

オリジナルは、経済発展した現代から、民主化前夜の韓国を振り返る。高校生の彼女たちも街中での抗争に巻込まれるし、主人公の兄は民主化運動に参加する。振り返るあの頃は「自分たちはきらきらした高校時代だけど、社会はけっこう厳しかった、年はとったけど、今の時代のほうが幸福」というバランスで、自分たちを噛み締める。

本作はそこへいくと、活気がなくなった現代から、まだ元気だった時代を振り返る。「時代も自分たちもあんなにきらきらしてた、あの頃」という、全面的に過去のほうが輝いてるバランスになってしまってるのだ。『モテキ』でもおなじみの、明るく光が散乱しているみたいな画面で描かれる「あの頃」。でもちょっと寂しい話ではあるね。

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もう1つのちがい、本作はオリジナルよりももっと女性の観客に向いて作っている気がする。オリジナルは制作側のねらいはともかく、おっさんもわりと入りやすかった。高校時代の少女たちもいやに活発で路上で大暴れしたりするし、主人公だっていわゆる美少女じゃない。男女差がそこまで大きくないのだ。現代パートは、女性ならではの悩みを全員抱えている、でもそれはミドルエイジ共通の感覚でもある。

本作の少女たちは、絵的には当時メディアに出まくっていた、アイコンとしての「女子校生」。喧嘩シーンもなぜか水着で水のかけっこだ。主人公は広瀬すず。いうまでもなく美少女だ。男の観客からすれば、自分たちを投影するというよりは、おなじみの鑑賞対象だ。あの世代特有のハイテンションな会話シーンもふくめて入り込めるようには演出していない。

彼女たちに感情移入できるのはやっぱり当時そうだった女性たちだろう。本作のラストはストーリーから離れたシーンになる。そこで描かれるのは、過去のじぶんたちを大人になった私が愛しげに受け入れるし、少女時代の私も現在のじぶんを認める、そんな空気なのだ。

タイトル通りに小沢健二の「強い気持ち・強い愛」に乗せたダンスシーンが展開する。どっちかというと文化系女子よりの小沢健二でギャル系の女子校生が?という疑問も浮かばないでもなかったけれど、たぶんそこじゃないのだ。ギャルだけじゃなくて、その時代女の子だった人たちに届かせたいんだろう。

■写真は予告編からの引用

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