カード・カウンター&ラスベガスをぶっつぶせ 〜カードカウンティング映画2作

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ストーリー: ウィリアム(オスカー・アイザック)は、対テロ戦争の頃、軍の収容所に勤務し刑務所で服役していた帰還兵。家族も定職も持たず、ポーカーで稼ぐギャンブラーだ。カード・カウンティングの技で確率をあげ大勝ちしない。そんな彼が1人の若者と出会う。若者は彼の元上司、残忍な収容所のボスへの復讐を誓っていた....

監督ポール・シュレイダー、2021年公開。シュレイダーはスピルバーグやルーカス、デヴィッド・リンチとかと同世代、マーチン・スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』や『レイジング・ブル』などの名作の脚本家でもある。本作プロデュースはスコセッシだ。十分ベテランだけど、本作はいかにもな回顧モノや過去のリサイクルとかじゃない。とはいえひたすら抑えたトーンの枯れた感じは、若い監督ともやっぱり違うかもしれない。

ミニマルな映画で、ちゃんと人格を感じる登場人物は4人くらいしかいない。他に何度か出てくるキャラクターもいるが背景みたいなものだ。主人公は各地のカジノで仕事をしてモーテルに帰る。ポーカーのシーンも派手な大勝負みたいな撮り方じゃなく、「目立たずに生きたい」という主人公の願望そのままに淡々と進む。シュレイダーお馴染みのラストの暴力的爆発も本作では非常に抑制的で情報量を絞りに絞った描写になっている。

この感じの理由は「予算がない」もそうとう大きいはずだ。予算額は不明だけれど、そもそも世界興行収入が7億円くらいの小規模映画だ。スコセッシが声をかけてなんとか資金を集めたインディー作品で、しかも撮影時にコロナが直撃。それもあって撮影自体、何度もリテイクできずに1〜2テイクでどんどんOKしていったそう。クリント・イーストウッドなみだ。

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(C)2021 Focus Features. A Comcast Company.

物語は収容所時代に犯した罪と心の傷を封印して静かに生きる主人公に、収容所のボスへの復讐のパートナーになって欲しくて若い男が近づいてくる。主人公は復讐の虚しさを教えたくて彼を付き人みたいにギャンブラーの旅に同伴させる。老成した主人公と未熟な青年の物語はイーストウッド的な擬似父子感のあるロードムービーとして進む。

主演オスカー・アイザックは際立って枯れて抑えめなキャラクターだ。白髪混じりの髪をオールバックにしていつもと違う人のようなスタイリッシュさ。過去の犯罪歴や暴力性を隠して静かな殺気みたいなのを見せる、渋めの「元ヤクザ映画」的人物だ。ただ高倉健ぽいそういう人物像にどこか神経症的なトーンを混ぜることで独特な雰囲気になる。

で、タイトルになっている肝心のカード・カウンティング。ポーカーでのカウンティングは場の出札を覚えて自分や相手の役ができる確率を計算するという、理屈は分かるけれど自分ではできる気がしない。映画ではタイトルにもなっているわりに、ポーカーでカウンティングしている描写はあまりなかった気がする。というかぜんぜん記憶に残ってない。物語では主人公はアメリカのポーカーの一大イベント、WSOP(ワールドシリーズ オブ ポーカー)に出場する。そのシーンもぜんぜんキラキラさせず沈鬱ともいえる描写の中で世界大会は進むのだ。

jiz-cranephile.hatenablog.com

 


🔲ラスベガスをぶっつぶせ

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ストーリー:ベンはMITの数学科学生。ハーバード大医学科へ進学が決まったたけれど、学費と生活費で30万ドル必要だ。数学的な才能があったベンに注目した教授は彼をブラックジャックのチームに誘う。頭の切れる学生を集めて「カードカウンティング」を駆使してカジノで荒稼ぎするのだ。ためらっていたベンだが参加するとすぐにエース格になる。毎週大金をゲットして浮かれるベンたち、カジノのセキュリティは密かに目をつけていた....

本作、好きなテリー・ギリアム作品『ラスベガスをやっつけろ』に邦題が寄りすぎていてなんだか腹が立つので見てなかった(まあどっちもロクな邦題じゃないんだけど)。原題は本作が『21(原作タイトルは Bringing down the House)』、ギリアム版は『Fear and loathing in LasVegas』で本作は原作タイトルに近い感じだ。

ブラックジャックのカードカウンティングはポーカーよりポピュラーらしい。場に出ているカードを3区分して-1, 0, +1のスコアを付けて合計し、スコアから残りカードの有利不利を判断、それに合わせて勝負するというもの。映画ではカウント役がスコアを仲間に暗号で教えて、有利な場にプレイヤー役が入って稼ぐ。イカサマじゃないから大勝ちできるかは分からない。勝率を上げて全体として勝つイメージなのかな。映画ではカウンティングがバレたプレイヤーがセキュリティに殴られ脅かされているけれど、非合法じゃないし、出禁になるくらいだそうだ。

モデルになったMITの学生、中国系アメリカ人のジェフ・マーはチームを結成、カジノでで数億円稼ぎ、だいぶ経ってから面が割れたそうだから大成功だったんだろう。映画ではイケメンのイギリス人俳優(とブロンドのヒロイン)を主役に持ってきて、典型的ホワイトウォッシュの批判も浴びたらしい。青春の挫折と野望と成功、みたいなわかりやすいストーリーにしている。

まあ特に入り込む話でもないし、おっさん観客に刺さる苦味や切なさや繊細な視線があるというタイプの映画でもない、時々アメリカ映画にある「スマートな男子が調子にのる」モノだ。その時代の青春映画を見たい観客に正しく消費されるタイプの作品というかんじかな。