逆転のトライアングル & ドント・ルック・アップ

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ストーリー:ファッションモデルのヤヤとカール。売れっ子でインフルエンサーのヤヤにカールは頭が上がらない。2人はスーパーリッチが集まる豪華クルージングに招待される。キャラが濃くわがままだらけの富豪たち。やる気のないアル中船長。船長主催のディナーの夜、海は大荒れとなりディナーは阿鼻叫喚の場になる。そして嵐が去った海上には海賊の船が.....

祝、カンヌ映画祭パルムドール受賞。上のストーリーはずいぶん遠慮しているが、公式も予告編も8割くらい、3章構成の3章までストーリーを言っちゃっている。知らない方が面白いと思うけど、配給側は、そこまで言わないと引きがないと踏んだんだろうなあ。原題は『Triangle of Sadness』眉間の三角シワのことで、カールのモデル的弱点になっている。他にも色々匂わせたタイトルだろう。邦題は、ストーリーを考えるとけっこういい説明になっている。

本作の監督はスウェーデン人のリューベン・オストルンド。前作『ザ・スクエア』は意識して居心地悪く作った映画で、良識派のつもりでいるアッパークラスのスウェーデン人たちがいやおうなく向き合う「多様性」がかれらの生活をざわつかせる話だった。(カンヌ受賞作を見にいくような)観客にも居心地悪さを突きつけるタイプの作品だ。

本作には居心地悪さはない。舞台はリゾート感あふれるクルーズ船や島で、前作にもあったコメディ要素はもっと濃い。超美形インフルエンサーとか富豪とか船長とか、極端な登場人物だけに絞って、かれらの生態を戯画化して誇張してみせ、スラップスティックめいた非日常的なシーンが連打される。

だから一般人観客からすれば、フィクショナルな世界の出来事をただ笑って見てもいられる。監督は政治的スタンスがわりとはっきりしていて、テーマ全体にそれが見える。本作でも色濃く出ているけれど、笑いに混ぜつつ単純化された分かりやすい描写で語られる。全体にエンターティメントで、見やすく、分かりやすいのだ。

監督はそれを「ヨーロッパ的なアート映画と、観客と関係が近いアメリカ映画をミックスしたんだ」みたいに言っている。ヨーロッパの映画人である監督がいうんだから、実際そういう色分けできるのかなあ.....「フランスでもイギリスでもベタなエンタメってあるじゃん?」と思わないでもないけれど。そこは一定の社会性をテーマにした映画の話かもしれない。

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本作みたいに富豪たちを戯画化して描く作品は昔からあった。最近見たのでいうと『ザ・メニュー』はすごく近い感触がある。上のポスターの構図もどことなく似てるでしょう(これ)。富豪たちが隔絶された世界に収容される。財力があり客であるかれらの社会的パワーと、その世界を運営する、富豪たちにサービスする立場に見えて、実際はかれらの命運を握っている人々。ただし本作はその対立がメインじゃない。ポスター的には『ザ・メニュー』のシェフの位置にいる船長は、実際は仕事をサボりつつ泥酔するダメな支配者だ。逆転はもっと違う形でおこる。

こういう異世界を描くエンタメでは、だいたい「観察者」ポジションの主人公がいて、感性も観客に寄せてある。かれ・彼女の視線が観客のガイドになって、侵入する世界の異様さを観客と共有する、そういうタイプあるでしょう。本作ではカールがそれだ。物語的には無力で、わりとダメ男でもあるカール。そのカールがファッションモデルであり、インフルエンサー彼女と美男美女カップルを形成している(大抵の観客からすれば「ぜんぜんいい立場じゃん!」)ところも本作の感触だろう。でもカールが美形なのはもちろん理由があって、美しい女性の多くが直面しがちな「美しさを搾取される」展開になっていくのが本作の一番面白いところだ。

本作の撮影は2020年、クルーズ船シーンもあわやロックダウンで中断、というタイミングだったらしく、島のシーンではスタッフ、キャスト全員周りから隔絶してけっこう過酷な状態で撮っていたらしい。実際のロケ地はギリシャの海岸リゾートだ。クルーズ船は20世紀の大富豪オナシスが世界中のセレブを呼んでクルーズしていた名船中の名船。これを選ぶところが『ザ・メニュー』で出しきれなかった空気なんだろうと思う。気が向いたらチャーターしてシーン再現をどうぞ。プライスは約1億円/週から。

 


■ドント・ルック・アップ

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<Netflix公式>

 『逆転のトライアングル』のオストルンド監督が名前をあげていたのが本作だ。ほんとはこんな刺身のツマ的にあつかう作品じゃない気もするけれど、見たのがけっこう前だし、配信限定だったし....いやでもNetflixオリジナル映画の中でも相当に面白いし、そもそも有数の大作だ。

大彗星の衝突=地球の滅亡をモチーフに、富豪や政府や学者、登場人物全員を純粋な正義の側に安住させず、メディアの狂騒、どんな危機でも政策的な有利不利でしかカウントしない政治家、そしてこういう時でも特権的に地球脱出船に乗り込む富豪たち.... 切り口としては見たことがあるけれど、分かりやすく、風刺もきつめで軽すぎず、そしてスペクタクルシーンは十分にリッチだ。配信画面じゃもったいないくらい。

主人公の科学者役レオナルド・ディカプリオ、その助手でメンヘラ研究者ジェニファー・ローレンス、どっちもいい。2人ともコメディ味をまぶすと実にいい味が出るね。

彗星衝突と地球の滅亡といえばラース・フォン・トリアーメランコリア』。うつ病観察映画でありながら、世界の滅亡をこの上なく美しく映像にしていた。