木枯し紋次郎 & 女の賭場

木枯し紋次郎

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<東映DVD>

ストーリー:上州出身の流れ者、紋次郎(菅原文太)は盟友、左文治(小池朝雄)の人斬りの身代わりになり三宅島に流される。思いを寄せたお夕(江波杏子)は船を追って海に身を投げる。島では犯罪者たちが脱走を計画していた。左文治を信じ、しかも島にいたお夕にそっくりの女への想いもあって、紋次郎は計画に乗らない。そんなある晩、島に大噴火が起こる....

木枯し紋次郎。1971年に小説が発表された新時代劇の大人気作だ。たぶん中村敦夫主演のドラマシリーズの方が知られていて、岩城滉一江口洋介主演でもドラマ化されている。本作は1972年に東映での映画化。主演菅原文太は1973年『仁義なき戦い』ブレイク前夜だ。実はモデル出身でファッショナブルな存在だったのにいざ役者になるとヤクザ物専業となった文太。本作でも時代劇とはいえその筋の所作を身につけた流れ者だ。

1970年代ともなると時代劇もクラシックな演出じゃ新鮮味がなさすぎたんだろう。60年代後半の『眠狂四郎』シリーズでアバンギャルドな演出やポップな劇伴が目立つみたいに、本作は極道実録物に通じる生々しい演出を入れた独特なカオス感が味わいになっている。同じ任侠物でも1962年の『座頭市物語』はずっと時代劇らしいおさまりなのだ。

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(c)東映 via amazon

なんといっても見どころの舞台が三宅島なので、どことなく漂流モノ的な、豪快な大自然を舞台にしたサバイバル、肉体のぶつかり合いになっている。それを象徴するのが元遊女のお花と脱走グループのリーダー捨吉だ。お花は野獣のような男だらけの集団にびびることもなく自分の欲望を解放して生きる。捨吉は野獣側の代表。演じる山本麟一は元ラガーマン、当時の日本人役者としては突出した肉体的存在感を生かすため常に半裸だ。役者本人もなかなかに野獣感のある人だったらしい。

そんな描写は肉体性を消した紋次郎とのコントラストを際立たせるためでもある。長身で細身の菅原文太は斬り合いの時以外は常に静の演技。島流しになっても着物がはだけることなくてすっと立っている。感情もあらわさないし怒鳴ることもない。よくいわれることだけど、この時の文太は『夕陽のガンマン』あたりのクリント・イーストウッドとほんとうによく似ている。

イーストウッド監督・主演の『許されざる者』では西部劇の様式的な銃撃戦をやめて、ほんとうの人殺しとして銃撃シーンを撮った(とはいえクライマックスはフィクションぽくなっていたけど)。本作も戦闘シーンは様式的な綺麗な殺陣をさせず、いい刀も剣術の素養もない荒くれ者たちの殺し合いとして、ある意味格好悪い集団戦、斬るより刺すのを多用する剣術シーンになっている。とはいっても紋次郎1人で10人以上倒して無傷、みたいなことなのでリアリティ重視じゃない。ある殺傷シーンは急にブレブレの手持ちカメラ撮影になってドキュメンタリックな雰囲気だ。

ちなみに三宅島は物語の舞台になった天保の噴火(1835年)から、全島民が避難することになった2000年まで数十年おきに噴火している。草木も生えない荒野と思うところだけど、溶岩の中にはミネラル分があっていきなり荒地に強い樹木が生え出し、意外に早く森林が回復することもあるそうだ。映画はわりと緑豊かな海辺の丘陵地が背景になっている。時代劇の旅物だと雑木林や杉林の本州中部的な背景がセットになりがちなのに、島の風景なのがなんとも不思議かつ面白い組み合わせだ。

 


■女の賭場

<角川DVD>

ストーリー:賭博師の名人沢井辰造は手本引きの会でイカサマが露見し、自死する。娘のアキ(江波杏子)は自分もなかなかの腕だが堅気の彼氏もいるし、賭場からは足を洗って小料理屋に専念することにする。しかしイカサマを見破り、勢力を拡大する立花(渡辺文雄)が接近してくる。やがて父の死の裏の陰謀を知ったアキは....

木枯し紋次郎』でヒロイン2役を演じた江波杏子が主演の女賭博師シリーズ。1966年の本作から1971年までわずか5年の間に17作も公開された。すごいペースとも思うけれど当時のシリーズものだと普通だ。まあ単発のTVドラマだと思えばそんなものだよね。制作チームもスタッフもスタジオも社内にあるんだし。

本作のモチーフ「手本引き」という賭博。とうぜん一般人が手を出すようなモノじゃない(僕もぜんぜん知らなかった)。1〜6までの札があって、子(賭け手)が張る数字(1〜4点)が親(胴元)の選んだ数字に合っていれば勝ち、というシンプルなルール。親は偶然出た札じゃなく選ぶので、そこがゲーム性の肝なんだろう。下の解説サイトによれば昭和時代が全盛期だったらしい。だから幕末や明治が舞台の股旅ものや任侠映画には出てこない。本作の舞台もほぼ60年代の雰囲気だ。Youtubeで冒頭の賭博シーンが無料で少し見られる。

japanplayingcardmuseum.com

本作、シリーズ物の第1作らしく、あまり類型化されている感じがしなくて、ある意味見やすい。様式的な演出や展開は少なくて、映像も堅実というかリアリティ寄り、大袈裟な乱闘シーンや怒鳴り合いみたいなものはなく、それでも登場人物は任侠の世界の人だから全体に締まった緊張感がある。

そして何より、本作の江波杏子は美しい。当時24歳だけど幼さは全然なく、まさに和のクールビューティーを具現化した存在だ。同じ女博徒物のスター、富司純子より愛嬌要素をそぎ落とし、さらに研ぎ澄まされた雰囲気がすごい。この役が評判で否応なしに任侠ヒロインになってしまい、本職にまで挨拶されるようになって本人はいやがっていた、という任侠スターお馴染みのエピソードがある。まあ無理もないというか和服姿が絵になる。

役者の顔とか雰囲気は、ほんとに時代の産物なんだとつくづく思う一作だ。

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(c)角川 via amazon

 

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