レッド・ロケット & ちひろさん

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ストーリー:元ポルノ男優のマイキー(サイモン・レックス)はほぼ一文なしでLAから故郷のテキサスに帰ってきた。何年もごぶさただった妻と義母の家に無理やり居候して、古い知り合いのつてで大麻の売人になって小金を稼ぐ。そんなある日、3人で入ったドーナツ店でバイト高校生に一目惚れ。彼女、ストロベリーの予想を上回るキャラに夢中になったマイキーは....

いまやお馴染み、A24の配給。『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベーカー監督作だ。ちょうどコロナ禍でカナダでの撮影ができなくなった監督がテキサスを舞台に決めて、地元の人も出演し短期間で撮影。16mmのフィルム撮影だ。

『フロリダ・プロジェクト』と作品世界は似ている。主人公もまわりの人も、白人とはいえ、まあ底辺の暮らし。セックスワークやせこい物売りで日銭を稼ぐしかない。でも暖かそうな南部の街の景色はカラフルでどことなく楽天的だ。『フロリダ』は母子家庭の話で、子供が主人公だから切ない感じもあったけれど、本作はどうしようもないおっさんだからほぼコメディになる。

主人公マイキーは元ポルノスター。苦労人風の奥さんもどうやら一時ポルノ女優だったことがわかる。LAのポルノ産業モノといえば不朽の名作『ブギーナイツ』だ。マイキーもその世界の住人だったんだろう。映画的にもセクシー担当めいたポジションで、半裸でうろうろしているし、重要な場面で何度か全裸になる。まさに体当たり演技、ポルノスター役も納得の身体性なのだ。

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(C)2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED. via Natalie

とはいえだいぶ歳をとったおっさんだ。そのかれが、17歳のドーナツ店員に惚れ込んでさっそくナンパを始める。店員役スザンナ・サンは20代後半だけど小柄でイノセントな、どこか危なっかしい雰囲気だ。そのくせ中年男のアプローチを全然いやがらない、それどころか「同級生より年上が好き....」みたいなトーンなのだ。

物語はおっさんの濃いめのファンタジーともいえる展開になっていく。MeToo以降の時代と思って見るとまぁまぁ踏み込んでる。くらべるのもなんだが、去年見た『コロンバス』と構図としては似ていて、本作は思い切り下品に、ある種本音むき出しにした。監督は「モラルのグレーゾーンを探究したい」と言っているから批判承知の描き方だろう。マイキーみたいな人、セックス業界にいて周りの人を利用する”スーツケースピンプ”(って呼ぶらしい)の生態描写でもあるのだ。ちなみに監督はセックスワーカーをきちんと描いた映画として溝口健二(『赤線地帯』とかだろう)をあげている。

かれをとりあえず受け入れる奥さんとその母がなんともいえずいい。奥さんは相当悲惨な境遇だけど、奇妙にたくましくて同情すべき対象に見えない。母はすっかりおばあさんながら遣り手感十分だ。マイキーが大麻を卸してもらう元締めも黒人の初老のおばさんで、でかい息子と怖い目の娘が手下役。テキサスのあたりではこういう母系社会的なものがあるそうだ。

ロケ地はテキサス州のテキサス市とその周辺。ヒューストンから60kmくらい、あまりイメージなかったけど海辺の街だ。巨大な製油所が背景にあって、いや背景というより街の景色そのものとして写している。下がマイキーたちが居候する家。見てもらうとわかるけど、家の前の道路も相当な感じだ。

マイキーが惚れ込んで、人生一発逆転を夢みるストロベリー、彼女の家は下の建物。写真より全然可愛い綺麗な色で写っている。撮影用に塗ったのかもしれないし、画面の発色もポップなトーンにしている。とはいっても全然リッチな街区じゃない。マイキーの夢のレベル感の象徴みたいだ。

 


ちひろさん

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ストーリー:元風俗嬢のちひろ有村架純)は、ふらっと海辺の街にやってきてお弁当屋の店員になる。過去を隠すつもりもないちひろはすぐに看板娘になりお店も繁盛。常識にとらわれず思ったままに生きている風のちひろに、親の束縛が息苦しい高校生オカジ(豊嶋花)や小学生マコトが惹きつけられて、街の日々はつづく....

Netflixで配信中。『レッド・ロケット』とは元セックスワーカー&海辺の街、的なところが共通だ。監督は今泉力哉、原作の漫画は安田弘之。ロケ地は焼津市

本作、うーん.....なんだろう、時々ある「マイペース女主人公のほんわか物語」に少し寄ってしまった感じがする。その手の物語にありがちなファンタジックな設定やコメディ寄り演出は控えめだけれど、全体のおだやかさ、ちひろに触れる人たちが次々に癒やされていく感じ、その辺かなあ。

原作の漫画は一部しか読んでいないけれど、ちひろは一種のピカレスクロマン的主人公でもあって、社会の規範を振り切って心のままに生きるし、暴力性を行使することもできる。それでいてにこにことお弁当を売るし、男心をあやつるのもプロだ。このあたりのヒロインの強さ、場を支配する力は作者の『ショムニ』ではもっと無邪気な形で現れていた。

映画でもホームレス(鈴木慶一!)や作業員とのエピソードとかで、ただの癒し系ヒロインじゃない部分は見せている。それに登場人物たちも、ちひろを筆頭にそれぞれ抱えているものがあってけっして楽天的なパステルカラーの物語というわけじゃない。

言ってしまうとアレだけど、有村架純がかもしだす〈まともさ〉がヒロインを安全なものに見せてしまっている気がする。白い絵でも下地に塗った色がどことなく雰囲気を決めることがある。その下地の濃さをあまり感じないのだ。じゃあ誰ならいいといわれるとなかなか思いつかないけど、魅力的という意味ではちひろが子供の頃に出会った(そして「ちひろ」という源氏名の元になった)お姐さん役の市川実和子はすごく魅力的だった。

あと、「味のある年長者」はリリー・フランキー風吹ジュン以外にいないのか。

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