マイ・ブルーベリーナイト


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ストーリー:NYで深夜営業のカフェを経営するジェレミージュード・ロウ)のところに飛び込んできたエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は失恋寸前。傷ついて店にやってきて、売れ残りのブルーベリーパイを食べる。何度も来るうちにおたがいの気持ちは近づいていた。でも1人になったエリザベスはジェレミーのカフェには行かず旅に出る。メンフィスのレストランでウェイトレスとして働く彼女は、妻と別れて傷ついた警察官、毎晩カウンターで酔いつぶれるまで飲む彼が気にかかる。その後エリザベスはラスベガスのカジノで働いていた。知り合った女ハスラーナタリー・ポートマン)がちょっとした旅の道連れになる。
監督ウォン・カーウァイ。新鮮でしたね1994年の『恋する惑星』。日本人からすると、撮影監督クリストファー・ドイルのカメラに東アジアの街がひたすら格好よく撮られていて「こんなふうにおれらの街も見えるんだ」という楽しさもあった。本作は2007年の公開だ。おはなしは主人公2人のラブストーリーなんだけど、物語は3部に別れている。2人の出会い、旅に出たエリザベスが出会う、メンフィスでのエピソード、ラスベガスでのエピソードだ。2つは特につながりはなくて、エリザベスはどっちも出会った人たちを見守る立場だ。つまり2つのエピソードはオムニバス的にそこにあって、主人公は狂言回しみたいになる。

カーウァイは完成した脚本をもとに撮るタイプじゃなく、現場でお話もどんどん変わっていく。本作もはじめはNYで完結するつもりだったそうだ。でもNYロケは予算がかかりすぎるので地方ロケを入れて、こんなスタイルの構成になったらしい。2つのエピソードはそれなりにエモーショナルな筋立てにはなっている。愛するはずの家族と反発しあう関係になる人たち。そこには愛する人の死も入り込んでくるだろう。でも見ていて感情がゆさぶられるというほどじゃなかった。特にメンフィスの別れた妻ばなしは型通りすぎて、この低いトーンの物語にはうまくはまっていない感じだ。ラスベガス編は、ジャームッシュ的とでもいうのか、ちょっと変わった人との出会いを物語的に構築しすぎない断片的エピソードで描いていて、こっちのほうが本作にはフィットしてる気がする。
ジェレミー役のジュード・ロウはここでは絵に描いたような気のいいイケメンだ。本作のノラ・ジョーンズは「見かけは質実で華やかさはないけれど芯がしっかりした女の子」という雰囲気で少女漫画の黒髪系ヒロインにときどきいるタイプ。金髪ふわふわヘアーのジェレミーはいつのまにか心が惹かれていて、カウンターで寝てしまった彼女に思わずキスしてしまう。だまって旅立ち、手紙を送ってくる彼女が気になってしかたなくて、メンフィス中のレストランに電話したりする。「えっ、そこまでだったの?」的な感じはあった。
撮影はあいかわらずきれい。ただ、盛大にぼかした前景を入れて画面をフレーミングする構成は、ちょっと多用されすぎな感じがした。「異邦人の目で見る〈なんでもないアメリカ〉の風景の格好よさ」系という意味では古典『パリ・テキサス』的ともいえる。