過去のない男


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2002年、アリ・カウリスマキ監督。ごつごつと骨ぶとでありつつまったりしている話。登場人物たちも骨格ががっしりしている。主人公の男は駅で襲われ、ぼこぼこにされて所持品も記憶もうしなってヘルシンキの海辺に放置される。それでも街の底辺を形成するコンテナハウスの住人たちと、かれらをサポートする救世軍めいた組織の助けで、その街に根づいていく。
いったんすべて失った男が、愛想はないけれどちゃんと彼に目を配る人々のあいだで、ささやかだけどもう一度生活を作り上げる。そこの描写のていねいさがこの映画のキモなんだろう。そのあとはこの監督らしい、ローカル化されたアメリカっぽさへの好みの世界になる。クレイジーケンバンドの「ハワイの夜」がかかるあたりが面白い。引用のしかたというか、ネタ元との距離感がわかりつつDJ的に取り込む感じが、フィンランド人にも意外に共感できるところなのかもしれない。
ヘルシンキ、行ったことないんだよなぁ。あらためて見るとフィヨルド的な複雑な海岸線に発達した、海辺の街というより海と陸が入り組んだなかにある街なんだね。大部分はこぎれいな街なんだろうけれど、こんな感じでそれなりに殺風景なところだってある。映画もそういう場所をえらんで舞台にしている。