わたしは最悪。

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ストーリー:ユリヤはノルウェーオスロに住む女性。成績優秀で医学部に入学したけれど何かが違うと心理学科に転入、それも違ったので大学をやめてフォトグラファーを目指す。そうこうするうちにアラフォーのコミックアーチスト、アクセルと出会い一緒に暮らすようになる。アクセルが求める妻的立場は拒否しつつ、自分には何もないことに落ち込んだある日、若いカフェ店員のアイヴィンと出会い....

2021年、ノルウェー他製作、監督はデンマーク人のヨアキム・トリアー。ぼくの知っているトリアーといえばラース・フォン・トリアーしかいないわけだが、彼と遠いながらも血族らしい。もちろん作風はぜんぜん違う。主演レナーテ・レインスヴェは初主演でいきなりカンヌ主演女優賞受賞だ。ま、柳楽優弥の例もあるし、アカデミーよりは新鮮な驚きを評価することがあるんだろう。

ここ何年か色々佳作が出ている「等身大の女性もの」(ざっくりした言い方だけど)の一連の感じでも見られるだろう。女性監督が撮る作品も多いけれど本作は1974年生まれの男性監督だ。で、見た感じでいうと、意外とユニバーサルな作品になっていた。言い方硬いけど、ようするに「ノルウェー人」「30歳前後」「女性」でないと本当には語れないような....とは割と逆の、世界中のわりと多くの人が自分たちに置き換えやすい物語だということだ。

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(C)2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA via cinemacafe

主人公は元々学力が高くて、医大に入り心理学科に転科する。「医学部に入ったのに?」とも思うけれどノルウェーは国公立大に入れれば学費は無料なのだ。その後自分はクリエイティブな人種だと「気がつき」、その道を目指し、クリエイティブで生きている彼氏と暮らし....という絵に描いたような自分探索家、「私まだ本気出してないし」タイプだ。ルックスがいいしオープンだから人と仲良くなりやすく、彼氏も求めればすぐできる。こんなタイプは若い時期はとうぜん自己評価が高くて謎の全能感さえみなぎったりする。

彼氏の家でそれなりに快適に生きているけれど、30歳に近づくとそろそろ謎の全能感も枯渇してくるようになる。冷静に考えればクリエイティブでもなんの実績も残してないし才能も証明できていない。ふと絶望的になる彼女はもう一つのプライド、アトラクティブな自分を再確認する方に流れていく。ぐうぜん出会ったちょっといい感じの若い男に近づいて、彼が自分に夢中になりつつあるのに気がつくと、そのことがすごい輝きになってくるのだ。

年上の彼氏に「母親になってほしい」と言われて苛立ったり、もちろん女性としての圧迫や悩みも描かれる。ただ主人公は悩むより口に出し、行動するタイプで、語り口があまり内面に入り込まないし、コメディめいた描写もところどころに挟まれて、そんな所もあってぼくも置いていかれることなく見られた。監督は自分にいわゆる「当事者性」がないことは重々承知だろう。わかる人にしか描けない微細な語りはそれができる作り手に任せて、ひらけた作りにしたんじゃないだろうか。

一種の内面描写では上の公開映像のシーンが見せ場だ。見てもらうと分かる、主人公がオスロの街を駆け抜けて、海に近い若い彼氏のいるカフェまで会いにいく、その間背景になる市民も車もトラムも静止画として止まっている。

でも、実はこの映像、特殊効果じゃない。単に人々に止まってもらって撮っているのだ。木の葉や旗が風でなびいたりしている。プルプルしそうな姿勢で微動だにしない人やバイクや自転車もあるから、色々工夫はしているんだろうと思うけれど、とにかく面白いシーンだ。

さて、世界のどこでも自分に置き換えられると書いたけれど、映画としてはやっぱりノルウェーの映画だ。オスロじゃないとダメなのだ。というのも本作、夕方から夜のシーンがとても多いのに画面がいつも明るい。夏の白夜の時に撮っているからだ。夕方にお別れしているように見えて、一瞬の夜を抜けた明け方だったりするのだ。この柔らかい光に包まれていると全体がなんだか幸せな雰囲気になる。オスロは海辺を見下ろす丘の地形で街の眺望も美しい。

上手いのは、物語の前半、主人公がまだ夢見てる時期、彼氏と楽しくすごしたり新しい出会いがあったり...というあたりは夏の景色、白夜の光の中で撮っていて、後半、彼女がいろんな現実に打ちのめされ始めると、秋に向かった少し寒そうで光が弱々しい風景の中になる。物語自体は数年間のできごとだから、季節は何度も巡っているのだ。

主演のレナーテ・レインスヴェは過去に監督作に出演していたけれど、俳優業に見切りをつけかかって大工(というより内装業?)になろうとしていたらしい。でも監督は彼女に特別なものを感じて、あてがきで脚本を書いた。繊細な雰囲気というよりは大柄でポジティブな生命感が溢れるタイプに見える。それも本作の悩める主人公をどことなく楽天的な雰囲気にしている。

 

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