眠狂四郎2作

大映時代劇シリーズその2。市川雷蔵の代表作、眠狂四郎ものだ。棄教した宣教師と日本人の妻との間に生まれた混血の美形で、黒い着流しに赤い髪。必殺技は円月殺法、モラルに背を向け、人を斬るのも女を抱くのも思うまま。流行作家柴田錬三郎が作り出したキャッチーなキャラクターだ。

分かりやすいキャラと毎回のエロ、どう見ても映像化狙いで設定した物語に映画会社はすぐに飛びついて、小説が発表された1956年に鶴田浩二主演で東宝が映画化する。大映のシリーズは1963年から69年まで、12作作られる。その後は田村正和片岡孝夫主演のTVシリーズが有名だ。

....的な話、ぜんぜん知らなかった。世代的にはドラマくらい見ていても...と思うけれど、触れてなかった。いつかまた再生されるのかも知れない。ビジュアル系剣豪だから今の役者でもハマりやすいしね。2010年にはGACKT主演で舞台化されたらしい。


 ■眠狂四郎 勝負

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ストーリー:狂四郎はひょんなことから知り合った老武士を勝手に護ることにする。武士は幕府の勘定奉行だった。緊縮財政を訴える勘定奉行には敵が多い。将軍の娘や豪商と繋がる敵が、5人の刺客を送り込んできた...

本作は雷蔵シリーズの2作目。1964年、三隅研次監督作だ。 カラー作品。シリーズ初期作にありがちだけど、様式が固まりきっていなくて、キャラクター表現も荒唐無稽ぶりも抑え目の、割と渋い時代劇だ。

まず、季節が冬で全体に画面のトーンが渋い。冬枯れの雑木林での決戦が何度かある。よく似た林が『座頭市』にも出ていた。まだ薪のため木がよく切られていた時代だから今みたいにうっそうと茂っていなくて視界の抜けが良く撮影向きだ。屋敷シーンで出てくる建物も本物かセットか、いい具合にエイジングされているし、路地や茶店のセットも作り込まれて、全体にリアル系時代劇の雰囲気がある。必殺円月殺法は、丁寧なライティングで、円を描いて回る刀が常にぎらりと光るように映している。斬り合いでは血は見せない。

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狂四郎のキャラは、ダークヒーローというよりは束縛から離れる自由人タイプだ。ボランティアで護る相手は正義の高級官僚だ。反体制というわけじゃない。女に対しては主要な女性キャスト全員に惚れられる設定ではあるのだが、自分からは手を出さない。全体に汚れ感はなく、ストイックで雷蔵本人のイメージからあまりかけ離れていないように見える。

老武士役加藤嘉がややうっとうしいながらも熱演だ。

 


眠狂四郎無頼控 魔性の肌

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ストーリー:ある侍(金子信雄)に秘宝の京都移送の護衛を頼まれた狂四郎(市川雷蔵)は、初めは断るが、秘宝を狙う闇の宗教集団、黒指党の党首(成田三樹夫)に付け狙われるようになる。別の女にも京都に来てくれと懇願され、侍の美しい娘(鰐淵晴子)を頂くことを条件に引き受ける。旅の途中、黒指党は手を変え品を変え狂四郎を襲撃する。矢場の女がついて来たり、色あり戦いありで旅は続く...

シリーズ第9作、1967年公開。監督は三隅じゃなく池広一夫大映のシリーズ物は主役が同じでも作品ごとに監督は違う。『座頭市』は三隅を含めた4人、江波杏子主演の『女賭場師』も4人で回す。東映だと、高倉健の『日本侠客伝』はマキノ雅弘、『網走番外地』は石井輝男、少し後の『仁義なき戦い』は深作欣二でほぼ固定だ。『緋牡丹博徒』みたいな複数もあるけれど、大映とは監督の立ち位置が違うのかもしれない。

どっちの良さもあるだろう。監督だって(主演もそうだけど)同じキャラで同じ話のバリエーションだとネタが尽きるし正直飽きるだろう。脚本家は変わってるパターンが多いけれどそれでも似てくる。『男はつらいよ』が監督も脚本も同じ人で通してるのはやっぱり特別なのだ。

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本作は作り手が変わってアップデートされているように見える。『勝負』からたった3年後だけど時代が違う感じさえするのだ。まず映像が鮮やかだ。同じ撮影所でフィルムや機材がそんなに変わるとも思えないんだけど。

『勝負』と季節の違いもある。緑が鮮やかで、室内から窓外のみずみずしい緑が明るく映えたり、まるでトラン・アン・ユンだ。それ以外も赤い鳥居や色とりどりの流し、鮮血の赤と闇、色のイメージが強い画面だ。狂四郎の黒い着物も映える。建築物や塀を使った端正で幾何学的な画面や、移動撮影の多用は三隅作品と同じだけど、斬り合いでは鮮血を飛ばす。

狂四郎の性格もこなれて、悪くいえばキャラ化が進んでいる。サクサク相手を斬り、女相手の好色シーンもこなし、ダークヒーローぶりも安定してきている。それから女優が現代風美女のラインナップだ。ヒロイン鰐淵晴子はハプスブルグ家(!)の血を引く混血の美女で背も高い。矢場の女、久保菜穂子もスタイル良さが売りで、もう1人も可愛い。今の女優さんが着物着て丸髷を結ってる感じなのだ。現代の時代劇と変わらない。

あと大きいのは音楽だ。『勝負』の音楽は、溝口作品も担当していたベテラン。本作は渡辺岳夫。時代劇だけじゃなくドラマ、『巨人の星』『アルプスの少女ハイジ』果てはガンダムまで、70年代名作アニメの音楽もバリバリやっている人だ。本作の音楽は哀調を帯びたギターやトランペットを合わせる、その後お馴染みになったパターン。そんなあれこれで、全体にその後のTVドラマ時代劇に近づいている。

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ストーリー展開は早く、旅を続けながら次々違うバリエーションで敵が現れては倒し、合間に美女を挟んでくる展開で見やすい。悪役成田三樹夫金子信雄もキャラが立っていて、娯楽的な楽しさはこっちが上だった。それでいてストーリー全体の因縁、全体を包む悲劇を狂四郎は全く防げず、できることと言ったら悪役を次々殺して、決着を付けるだけ。ダークヒーローならではの絶望感はむしろ濃い。

ちなみに特筆すべきシーンがある。コントや漫画で見る「帯回し」、悪役が女の帯を引っ張って「あれ〜」と言いながらくるくる回るやつあるでしょう。何と雷蔵があれをやっているのだ。監督はよほど気に入ったのか別のシーンでもやっている。ひょっとしてこれが元祖.....?

 ■写真は予告編から引用

 

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