緋牡丹博徒 

緋牡丹博徒シリーズ。東映藤純子主演の女侠客モノだ。1968ー1972年に8本製作された。当時大映で当たっていた女侠客を東映でもやろうということになって、名プロデューサー俊藤浩滋の娘、藤純子をヒロインに企画。任侠系のプログラムピクチャーの1つだ。『仁義なき戦い』から始まった実録物以前、任侠道を何より大事にするクラシックなヤクザたちの物語だ。

 

■緋牡丹博徒<参考>

f:id:Jiz-cranephile:20200412193258p:plain

シリーズ1作目。序盤で、明治中期、熊本人吉の矢野組の1人娘竜子の無邪気な娘時代から、決まりそうだった結婚が破談になり、父が何者かに殺され、組は解散、復讐を誓って博徒の道に入り、「緋牡丹のお竜」として知られるようになった所まで一気に説明される。

5年の修行を経て、お竜は賭場での腕も一流になり、口上もびしっとこなし、刃物を持ったチンピラに囲まれても小刀一つで切り抜け、度胸はだれにも負けない、そんなハイスペックな博徒に成長する。成長物語というよりはすでにヒーローとして完成した状態だ。

本作はまず、親の仇を討てるかどうかが本筋になる。とはいえ、物語のフォーマットは初回で固められている。だいたいこんな流れだ。

・旅するお竜がある土地に流れ着き、地元の組に世話になる。

・賭場で一モメあったり出会いがあったり。

・助っ人役の流れ者と出会う。

・世話になっている組と対立する組がいる。利権を物にするために汚い手を使ったり、抗争を仕掛けてきたり、とうぜん悪辣だ。

・何度かの小競り合いではお竜が先頭に立って敵地に乗り込む。「サイコロで決めようじゃないか」的な博打勝負シーンがはいる。

・やがて抗争がエスカレートし、敵が許しがたい一線を超える(大事な人が殺される)。

・お竜は組同士の抗争を起こさせないため、単身で敵の集団に挑む。いつの間にか助っ人が現れ、共にばったばったと敵を切り伏せていく…

本作ではシリーズものの重要なレギュラー陣も登場する。彼女を世話する大阪の女組長(清川虹子)、義兄弟の契りをかわす熊虎親分(若山富三郎)たちだ。本シリーズは一応世界観は連続していても、登場人物はだいたいリセットされ、高倉健は毎回違う役で出る。けれどレギュラー陣は別だ。

f:id:Jiz-cranephile:20200412193330p:plain

この手の映画、あまり見てきていないからたいしてリテラシーも高くないけれど、とにかく様式の映画なので、すぐに飲込める。善玉は曇りなく善玉(ヤクザではあるんだけど)だし、悪役は多少共感できるところもあっても、クライマックスに向けて悪どさがエスカレートしていくので、成敗やむなしという気分になる。とうぜん悪役は成敗されてすっきりと終わるのだ。

観客は予定調和の世界に浸り、もとめるものは絵になる役者の立ち姿だ。藤純子は後年、富司純子化してからの方が記憶にあった。本作ではなるほどヒーロー/ヒロインものの主役にはまり切っている。上戸彩をほうふつとさせる一瞬もありつつ、甘さのない端正な顔、やや角張った骨格で凛とした強さを見せながら、黒目がちなつぶらな瞳で善玉感と女の可愛さも表現。

「女は捨てました」と言い切るお竜は、小刀だけじゃなく拳銃も持っていて、接近戦では柔術めいた体のさばきとこれらの武器で無敵級の強さを発揮する。もちろんそこは様式だからつっこみは野暮だ。そんな凄腕の博徒でありつつ、大多数だっただろう男の観客に受け入れられやすいように(企画も脚本も演出も男なわけで)、スター俳優の助っ人にはかいがいしく接したり、すがってみせたりする。

相手役の高倉健は当時30代半ば、本人はいつも同じ寡黙な侠客役ばかりで、やめたかったらしい。そうはいっても図抜けて絵になる立ち姿だ。あと彼女を支える熊倉組の幹部役、待田京介が気になる。この役者さん今まで知らなかった。ちょっと悪役風の人相だけど格好いい。

 

■緋牡丹博徒 花札勝負<参考>

f:id:Jiz-cranephile:20200412193351p:plain

シリーズ3作目、本作の舞台は名古屋だ。世話になる組の親分は嵐寛寿郎、敵役の組長は小池朝雄、助っ人はまた高倉健だ。今回見た3作の中ではこれが一番面白かった。偽お竜との出会いから始まって、親分の息子がらみのロメオとジュリエット的恋愛騒動がはいり、偽お竜の目の見えない娘へのヒューマンなエピソードも絡む。

本作でいいのは敵役、小池朝雄だ。一足先に近代化してビジネスに進出するヤクザ。洋風の応接間がある屋敷で、親分衆の会合でもスーツを着ている。露骨な悪役顔じゃなく、顔を歪めたり、無駄に凄みを効かせるでもなく、淡々とした悪役だ。敵だからもちろんこちらがわの組の利権を奪いにかかるけれど、トラブルの一因になっているロメオとジュリエット的恋愛では、どっちかというと被害者なのだ。

f:id:Jiz-cranephile:20200412193415p:plain

本作、明治時代の名古屋が舞台でロケも多い。街中というより旅の道中だ。西部劇テイストがところどころにある。荒野を馬車で疾走してると、馬にのった相手が現れたりする。登場する名古屋駅も、時代考証してるとは思うが(形は少し似ている)、ずっと本物より小さく、西部の駅みたいだ。黒澤明『用心棒』以来、時代劇にウエスタン風を入れるのはありになっていたけれど、唐突さが面白い。

助っ人高倉健との出会いのシーンも印象深い。鉄道の高架橋の下を舞台にして、傘を印象的な小道具に使う。高架橋では上を通る蒸気機関車の水蒸気が下方向に吹き出されてスモーク効果を出している。高架橋と傘はのモチーフは何度かくりかえされる。

本作の高倉健、雰囲気は第1作よりもう少し若そうな立場の流れ者だ。相変わらずシュッとしていて様になる。見ていて気が付いたけど、若い頃の高倉健、なにげに瑛太が少し面影が似ているね。

レギュラー陣では、大阪の姐さん、清川虹子が頼りになる親分として貫禄を見せ、若山富三郎はコミカルさと合わせて強さも表現。立ち回りシーンの中でよく見るとものすごくトリッキーな動きをしていて、評判の身体能力の高さをにじませている。若山の手下、待田京介もまたまた登場、集団戦シーンでは無双ぶりを発揮している。敵役では賭博のプロ、五十嵐が不気味な存在感でなかなかだ。

 

 

■緋牡丹博徒 お竜参上<参考>

f:id:Jiz-cranephile:20200412193446p:plain

「シリーズ最高傑作!」的評価が多い本作はシリーズ第6作。世話になる組の親分はまた嵐寛寿郎、敵役の組長は安部徹、助っ人は菅原文太。ストーリーは「花札勝負」と繋がっていて、その数年後の話だ。たった4年間のシリーズだけど、お竜は23歳から始まって、そこそこの歳になっているようなのだ。

花札勝負」で世話した目の不自由な少女、お君をさがして浅草にやってきたお竜が、世話になっている組の芝居興行権を奪おうとする敵の組との抗争に巻込まれる。博徒の世界と芝居小屋、東京一の繁華街だった当時の浅草。そこにお君と許嫁のロメオとジュリエット的悲恋が挟み込まれる。

ストーリー的には敵役の悪辣さが3作中でも図抜けていて、組長役安部徹のシリアスな悪役顔とあいまって、じつに憎々しい敵だ。暴力や脅しや窃盗や実力者への根回しや、あらゆる手をつかって利権を奪いにかかる。そして悲恋を悲恋にしてしまうのも彼らだ。

本作はその映像美でかたられることが多い。3作の中で言うときわめて抽象度が高いのが特徴だ。「花札勝負」ではロケが多く、実在の鉄橋や橋や田舎道などの、画面の情報量が多かった。本作は室内セットを別にすると、大道具だけで背景は単色、という画面が多い。単に屋外セットを組む予算や時間がなかったんじゃないかという気もするが(屋外シーンは風景のひろがりがない)、独特の(とはいっても後年の時代劇でもときどき見かける)画面になっている。

明治時代の浅草が舞台となるとロケで雰囲気を出せる場所もそうそうなかっただろうから、そこは苦労の末のあの感じなのかもしれない。浅草のシンボル、凌雲閣(関東大震災で倒壊した)は、セットに映り込ませている。

f:id:Jiz-cranephile:20200412193508p:plain

画面構成はすごく意図が見える。人の配置もありきたりじゃなく、前景や地面で画面をトリミングして片隅で役者が芝居するシーンもある。吉田喜重の『戒厳令』を思い出す構成だ。室内では高低差を生かした戦い方やシーンが多用されていた。それから橋が何度も出てくる。時代劇調の太鼓橋、永代橋のような鉄骨のアーチ橋、別れの舞台になったり、抗争の舞台になったりする。

本作の助っ人、菅原文太がじつに格好いい。『仁義なき戦い』『トラック野郎』とかの直情型で純情なキャラクターじゃなく、寡黙で抑えめな、影のある役だ。それがぴったりくるかはともかく、角刈りで黒っぽい着物に身をつつんだ長身の菅原はおどろくほどに引き締まった存在だ。レギュラー若山富三郎は1シーン活躍するが、あまりに唐突。

写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com