東京流れ者 & ジョンウィック・コンセクエンス

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ストーリー:東京の極道、倉田組が解散し、通称不死身の哲(渡哲也)はカタギになる。しかし親分(北竜二)が始めた不動産業をライバル組織大塚組があの手この手で妨害し、ついに人死にが出てしまう。抗争に絡んだ哲は庄内の親分の所へ世話になるがそこでも抗争、流れて佐世保にくると、また命を狙われる。ついに東京へ戻った哲は....

1966年、日活、鈴木清順監督。英語タイトルはTokyo Drifter。下で紹介している『ジョン・ウィック』もオマージュを捧げている、ちょっと変わったモダンヤクザ映画だ。だいぶ前にレビューした『殺しの烙印』と比べると、ヤクザ映画のフォーマットだからそこまで抽象的じゃないが、現実感無視の画面効果最優先の室内セットや色彩構成、ライティング、そしてスタイリッシュな画面の中の様式的な銃撃戦や格闘アクション....なるほど87Elevenがやろうとしていることの原型なのはよくわかる。

本作は当時デビュー直後の若手有望俳優、渡哲也売り出しの企画で、タイアップで映画と同名のレコードが発売されて、38万枚となかなかにヒットしている。だから本編でもテーマ曲として流れるし、ヒロインも同じ曲を歌い、というか本編中何度も何度も流れて、時には哲也が口笛で吹き、若干冗談めいたくらいに本作を聴かせるのだ。営業的要請に応えたとも言えるが「流せば文句ないだろ」と逆手にとってやりすぎ感を出しているようにも見える。

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ストーリーはカタギになっても義理に厚く元親分を助ける主人公、まっすぐすぎる生き方であちこちに衝突しつつも慕われる、しかし不遇の身の上の中でついに怒りが頂点に達して...的な任侠クラシックでお馴染みの展開だ。正直に言ってストーリーも台詞回しも大して面白くない。義理人情もそんなに染みてこないし、裏切り展開もそれほどスリリングじゃない。あと、これは僕の個人的好みだけれど、主演の渡哲也、当時としてはかなりの長身で、一見して主役感は半端ないのだが、流れ流れる元極道の哀感というにはまだ童顔でどこか少年っぽいのだ。

もはや伝統的任侠映画は合わないこの時代、本作では今風の風俗を見せながら、ヤクザもスタイリッシュに撮っていく。舞台は赤坂や表参道、ヤクザが経営する店もモダンデザイン(というかピアノとカウンター以外何もない)インテリアだったり、ゴーゴー的な当時のダンスを踊る店だったり。ヤクザはギャング映画風にツイードのコートを着てアメ車に乗る。哲はライトブルーの爽やかなスーツで走り回り、彼を助ける兄貴的男(二谷英明)は鮮やかなグリーンのジャンパーで銃を構える。

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(C)日活

漂泊の主人公を追いながら、映画のトーンも章構成の作品みたいに場面ごとにがらっと変わる。プロローグはモノクロの港湾地区暴力シーン、港湾鉄道があって芝浦ふ頭あたりに見える。そして東京オリンピックの新しい高速道路や代々木体育館を写して、おしゃれな東京編になる。哲が旅立つ庄内編は実際は新潟県十日町ロケで、江戸時代の渡世人屋敷と変わらない和風の家に雪景色、鉄道の、王道任侠映画風の舞台だ。そして佐世保は米軍や愚連隊が出入りする狂騒的なクラブが舞台。セットでド派手なドタバタ乱闘シーンを撮る。ロケ部分は景色が似た横須賀ドブ板通りだ。

とまあこんな感じで、基本はスター映画だから、若い渡哲也や松原智恵子に魅力を感じればそれで十分だし、ぼくは当時新鮮だった都市の風景や、あとは鈴木清順独特の、低予算な中でのミニマルかつトリッキーな画面を楽しんだ。

 


◾️ジョン・ウィック・コンセクエンス

<公式>

ストーリー:伝説の殺し屋、ジョン・ウィックは、殺し屋世界を支配する主席連合の中で成り上がった男、グラモンに命を狙われる。グラモンはジョンの旧知の友、盲目の殺し屋ケインを差し向ける。どこにも安住の地がないジョンは、砂漠から大阪、ベルリン、そして最終決戦の地、パリへ向かう.....

トム・クルーズと並ぶエイジレスアクションヒーロー、キアヌ・リーブスのシリーズ、まあこれも『ミッション:インポッシブル』同様、何か語るべきことは特にない。無心に映画館の椅子にもたれ、アクションの連打を浴びて、整えばいいのだ。作り手は観客に奉仕するためにあらゆるアイディアと労力を投入して、キラキラとカラフルで、世界各地の風景が高クオリティで写し取られ、色彩もセットもライティングもアーティスティックで、それでいて戦うキャストたちの肉体性は十分に堪能できる高品質な3時間の体験を今回も作り上げた。

ファンは承知の通り、全く笑わない主人公ジョンが引っ張るこのアクション大作シリーズの基本トーンは「過剰」を重ねることで笑いをよぶコメディだ。所々にある悲しみや哀感は記号的なもので、観客をクールダウンさせるパートだ。今回は過剰さがさらに増し、若干ホテルバイキング的な膨満感すら発生しているようにも見える。

"アーティスティック”と書いたし、さまざまな評の中でこの言葉が見られる。ただしその方向性は「高級なキッチュ」だ。