DUNE 砂の惑星

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ストーリー:西暦1万190年。皇帝が支配する宇宙帝国の1つの星を統治するアトレイデス家に別の星の統治命令が下る。宇宙航行に不可欠なスパイスの産地、惑星アラキス、通称デューンだ。家長の父(オスカー・アイザック)母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、15歳の息子ポール(ティモシー・シャラメ)たちはデューンに降り立つ。しかし新たな統治は、それまでデューンを支配し、スパイスで巨額の富を築いていたハルコンネン家と皇帝の陰謀だった....

見たのはけっこう前で、IMAXの映像に十分満足したんだけど、何かを書こうとするとピッタリと指が止まる自分がいた。『STAR WARS』シリーズなんかもそうだった。止まりすぎて記事にさえしてない。本作がまとっている物語は豊穣すぎて、そのどれももう十分に語られている。熱心なファンは前作(36年前だ)から思い出を刻んでいるのだ。

原作はSFの古典的名作で、物質の摂取による精神の変容や環境問題をテーマにがっつり取り込むあたりもいかにも1960年代的だ。「1つのスパイスによって星間航行が可能になる」とか「極度に乾燥した星で使う、体から出た水分を循環させる服」とか「砂の下で蠢く体長数百メートルの虫」とか魅力的なイメージが盛られていて、発表当時から映画化が考えられていたのも無理もない。1970年代の映画化プロジェクトの頓挫(その顛末が『ホドロフスキーデューン』)、1984年のデヴィッド・リンチ版、ドラマ版をへて2021年の本作だ。

 

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見比べると、原作・前作リスペクトがかなり感じられる作品になっていた。エピソードも、映像表現の仕方も前作の映画にけっこう寄せてきている印象だ。もちろん1980年代の特撮技術の限界によるキッチュさはできるだけ排除されている。映画全体の雰囲気では監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの前作、『ブレードランナー2049』と連続性を感じる。

とにかく語り口が落ち着いている。編集リズムも戦闘シーン含めてシャカシャカしていないし、ギミックっぽい表現もないし、大袈裟なエモーションもコメディー要素もない。映像の色調もすごく抑え目でコントロールされていて雑然としたところがいっさいない。撮影監督は違うけれど、監督のビジョンも大きいんだろう。それから巨大構造物愛、年月をへた建造物愛をすごく感じる。

SFの中の巨大宇宙構造物。本格的にモノにしたのはたぶん『2001年宇宙の旅』の宇宙船や宇宙ステーションの表現だと思う。そして『STAR WARS』だ。長大な貨物列車が通過していく時みたいに、超巨大な宇宙船がえんえんと時間をかけて画面の手前から奥に消えていく。機敏に飛び回るスペースプレーンと違う格好良さだ。

 

改めて見ると、リンチ版でもそんな宇宙船が出てきていた。ヴィルヌーヴは『メッセージ』でもぼんやり浮く巨大宇宙船を描き(同じ巨大UFOでも『インディペンデンス・デイ』とかみたいに強大な力の象徴じゃない)、『2049』では都市のメガストラクチャーを描いた。本作では宇宙船だ。鈍重に、でも確実に浮遊して星間を移動する超巨大宇宙船。建築物も壮大だし、砂の下の巨大な虫(サンドワーム)はさらにスケールアップして地形レベルの大きさになる。

IMAXのちょっとしたビル並みの画面で見るとその巨大さは重量感をもって迫ってくる。本作はIMAX用に撮られていて、次回作も監督は劇場公開を条件にしている。IMAXといってもVR的な没入の仕方じゃないけれど、本作はあきらかに「巨大さ」という視覚的体験を与えようとしている。劇伴も体験を強化するためのパーツで、機械のうなりみたいな重低音を使う。作曲家は違うけど『ボーダーライン』を思い出す部分もある。

物語的には完全に「第一部」だし、ところどころに込められている物語的エモーションは、どれもありがちなパーツで、その部分で心震わせられるような感じじゃない。やっぱり映像体験型なのだ。

ちなみに、これも前作通り、物語後半は主人公ポールと母ジェシカが2人きりで、アクション的にもこの2人がひっぱって行く。母は連綿と続く女系秘密組織の一員で、息子の能力を鍛錬し、砂漠を走るのもなんなら息子より速く、超自然的な力も持ち、しかも格闘でも一級の実力者だった。この関係性、割と見慣れない構図で、新鮮かつ、怪しげな空気感を観客が勝手に感じ取ってしまう罪作りな設定でもある。ポールを演じるシャラメは26歳、母役のファーガソンは37歳だからおっかさん的には見えようがないのだ。まあポールが15歳設定くらいだから不自然じゃないけど。

その分、父は存在感が薄く、むしろ敵の巨頭ハルコンネン男爵が異様な男性性を発散しながら存在している。演じるのはステラン・スカルスガルド。ただの大柄な老人風にも見えるが『ニンフォマニアック』とか『ファイティング・ダディ怒りの除雪車』とか目が離せない俳優の1人だ。

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