2001年宇宙の旅



<予告編>
IMAXシアター、期間限定公開。ファミリーで溢れるショッピングモールのシネコン、前に『ゼロ・グラビティ』を見たのと同じシアターに。「こんなのわざわざ見に来るの、元マニアのおっさんだけだろう」という予想をスカし、意外にいろんなお客がふつうにほどほどに席を埋めているのだった。幼い女の子をポップコーンでなだめながら連れてきてるお父さんまでいた。

視界いっぱいの画面で改めて見てみてよく分かった。本作はもちろんストーリーがあるし、思想に裏打ちされた象徴的なシーンが続く。でも3時間のけっこうな部分はストーリーを進めるシーンじゃなく、未来の宇宙開発の先端をたっぷりと見せることが目的なのだ。体験型映像なんだよね本当に。体験型の宇宙モノ『ゼロ・グラビティ』は手法や見せることは違うけれど、『2001』をもう一度やりたかった企画なんだとあらためてわかった。
本作で一番見せたいものはやっぱり無重力下の体験なのだ。1968年。有人宇宙飛行の成功から7年、アポロ計画の初月着陸は翌年1969年だ。だれもが(人類のだれかがつねに宇宙にいるようになった、いまよりたぶんずっと)夜空を見上げて宇宙にいる自分を想像しただろう。とおくスウェーデンの田舎で宇宙犬に想いを馳せる『マイライフ アズ ア ドッグ』の少年みたいに。1971年のフランス映画『トラフィック』でもオランダの田舎のおじさんたちもアポロ計画のニュースを聴いている。


だから映画では「宇宙の日常」を描くのだ。退屈な移動中に居眠りする乗客。客のサービスをするCA。操縦士の食べるフライトミール。月での関係者の会議。地球で暮らしているの家族への連絡。宇宙飛行士たちも運動不足解消にジョギングしたりひまつぶしにチェスをしたり。そこにはとくべつにヒロイックな気負いもテンションもない。家族への連絡だって「もう2度と会えないかもしれないけど....!」的な「戦地からの手紙」ノリじゃなく、留守中いい子にしてるんだよくらいの感覚だ。
監督はたぶん敢えて登場人物たちを分かりやすくリラックスした状態で見せて、日常との地続き感を出している。それはもちろん、物語中盤〜後半の緊張した展開、宇宙船の人工知能HALと人間の対決場面とのコントラストでもあるんだろうけど、展示施設とかにありそうな 、ストーリーを持たない未来技術紹介映像風でもある。

無重力表現は、宙をただようペンから始まって、上下の制約なく動くクルーやアテンダントたち、それから宇宙船の船外作業シーン。船内シーンは巨大な可動セットで撮る。基本はセットを回転させて、回転を合わせたカメラで撮る(だから回っているように見えない)ので、宇宙船の各部も円形ベースだ。これ『インセプション』のホテルの廊下のシーンでやっていた。
あと、大画面で見るとすごくドラマチックに迫ってくるのが宇宙ステーションや長距離宇宙船の巨大さ表現。IMAXの迫力で初めて作り手の狙いがわかる。巨大空間の間を移動してるような視覚の快感がすごくある。しかもステーションの描写では巨大な画面の片隅に客室の内部が写っていて、小さな窓の中で人々が蠢いているのだ。宇宙船や基地は工業製品らしいグレイ一色で、そのかわり表面に細かいディティールがびっしりと取付けてあって、それもスケール感につながっている。数年後の『スターウォーズ』がまなんだ見せ方だ。


もちろんCG以前の表現の限界はある。あとふつうのフィルムをIMAXに拡大すると画面のあらが目立つところもある。とくに惑星の表現は平面の描き割りっぽさが感じられる。でも、もっともアイコニックなシーンのひとつ、ラスト近くのスターゲイトのシーンはやっぱり美しい。スリットを使った切迫感あふれるシーンは、たとえば『インターステラー』でストレートにオマージュささげてた。それから宇宙の生成、ガス星雲みたいな現象をCGじゃなく特殊なケミカルの拡散を写して表現するシーン。VFXのレジェンド、ダグラス・トランブルの天才がわかるビジョンだ。これを後年に「あれが欲しい!」と言って再現したのがテレンス・マリックの『ツリー オブ ライフ』だった。
トータルの印象でいうと、新旧のカーデザインにも似てるかもしれない。最近の車は3DCGの中でモデリングしていくし、鉄板のプレス技術も上がって、複雑な面と線の組み合わせで細かい陰影をつくる。はっきりいえば日本車なんてその複雑さを処理しきれなくて、全体が統合されてないように見えるのが多い。でも「美しさ」「格好よさ」の文法とか原理は50年前からじつはあまり変わっていない。工作技術にも限界があった当時の名車は「美しさ」「格好よさ」を少ないボキャブラリーで表現していた分、デザイン上の力点が集中していたし、シンプルさからくるエレガントさがあった。本作も情報量は最新CGより少ないかもしれないけれど、見せたいビジョンの強度はすごく感じるし、ムダなはったりや余計な情報が画面にない分、なによりこの上なくエレガントだ。