配信系2作 KATE & ミッチェル家とマシンの反乱

■KATE

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ストーリー:ケイト(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は親代わりのヴァリックウディ・ハレルソン)に技術を仕込まれて、今では一流の暗殺者になった。今度の仕事場は日本、ターゲットはヤクザの親分(國村隼)。しかし前の晩に毒物ポロニウムを飲まされた彼女の余命は24時間だとわかる。彼女は、なぜか相棒になった少女アニと、自分で決めた最後のミッションに向かう....

本作は最近のアクションムービーの一大勢力、デヴィッド・リーチがプロデューサーでかんでいるプロジェクトだ。彼のアクションデザインの会社87elevenのプロジェクトは『ジョン・ウィック』シリーズ、『アトミック・ブロンド』『エクスペンダブルズ』...ただし本作は入ってない。

観客は、まずは『アトミック・ブロンド』風に女性のガンアクション&体術をクールな画面で楽しんでいく映画を期待するだろう。そして舞台が日本。大阪の空撮から始まって、舞台は東京、日本のヤクザには國村隼浅野忠信、MIYAVI、それに何故かあっぱれさんまに出ていた内山信二などの見覚えある顔が並ぶ。もう一人のヒロイン、アニも「かわいい系」大好きな日本人の少女設定だ。日本人観客はその辺りも味わいつつ楽しむ感じになる。

欧米メジャーのエンタメ映画に各国の犯罪組織は欠かせない。それぞれエキゾチシズム込みで描けるから、作り手側としてはありがたいはずだ。マフィア=シチリア南欧っぽい風景。ロシアンマフィア=寒々しいモスクワあたりの風景、意味ありげなタトゥー、ヒューマントラフィッキング。メキシコや中米のドラッグカルテル=ジャングルの中の豪邸、残虐すぎる見せしめの殺人、軍隊みたいな武装。あとはブラジルのスラムと一体になった少年ギャングとか中華街的風景とセットになったチャイニーズマフィア...まあ色々名作はある。

そしてヤクザだ。だいたいサムライと混同されて、下手するとニンジャ的メンバーまで入れられて、和風の料亭めいた場所で秘密会議が行われる。本作もそこはまったく変わらない。指定暴力団のリアリティはここでは必要じゃない。舞台は現代化されたビジネスヤクザのハイパーモダンなビル、昔かたぎの親分がいる茶道の宗主の家みたいな品のいい屋敷、東京でも相当レアになった路地の飲み屋街。あと能やら大太鼓やらがミックスされたステージ付きの謎料亭。

本作では最終的にほとんど正義側まで持ち上げられる1人を除けばヤクザは主人公に狩られる見栄えのいい敵の集団に過ぎない。人間的に意味を持たされているのはその1人だけで、けっこうな役者でもチンピラ口調で薄いセリフを喋らされたあげく、あっさり死んでいく。相棒アニも、似たポジションの『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のスリ少女(もっと年下)より幼稚だ。主人公の人間的な葛藤の相手は育ての親兼上司のウディ・ハレルソンなのだ。ま、ハリウッドスターは主人公以外ほぼ彼しかいないからね。

日本人って、昔から「海外に誤解されたヘンな日本」像を楽しむというたしなみがある。古い映画はもっとひどかったし、ありていに言えば露骨に下に見ていたから流石に不快なものも多かったけれど、それなりにイメージが良くなって日本カルチャーが好きなクリエイターも増えて、あとポリコレ的に無茶な表現はなくなって、割と微笑ましくズレを楽しめるようになった。本作も日本ではそういう感じで受容されていくんだろう。海外観客からすれば「今の日本」的ステレオタイプに多分合ってるから味付けとしては十分だろう。

本作、Netflix映画としては全世界で結構ヒットしたらしい。時間も100分だしちょっと寝転がって見るアクションとしては申し分ないよね。まあそのテンションで見てるとこの描き方も別にいいか、という感はあった。ただ日本人云々別にして、敵側をもう少し厚く描けば1段お話として格が上がったのにな、という気はした。


■ミッチェル家とマシンの反乱

ストーリー:ミッチェル家の長女、アビは映像制作が好き。家を出て映像学科に入学するつもりだ。父リックは映像の道も家を出るのも賛成しきれず娘にすっかり嫌われてしまった。いよいよ入学の時、リックは家族で娘を送っていく旅を計画する。ところが巨大IT企業PAL社のプロジェクトの中枢にいたAIの反乱で世界は大混乱におちいって....

制作は『スパイダーバース』『LEGOムービー』『曇り時々ミートボール』、それに『ブリグズビー・ベア』などの制作、脚本チーム、フィル・ロード&クリス・ミラー。まあ普通に面白いです。お父さんの思いと娘の自立心のすれ違いとか、どっちかというとアウトドア&日曜大工派のお父さんのがパソコンやネットで苦労するお馴染みのくだりとか、お母さんや息子のご近所一家との微妙な距離感とか、それ以外も細々としたギャグが楽しい。

敵の人工知能、高性能ロボット集団も残虐なわけじゃなく、適度にスキも愛嬌もある。敵の総帥は、外形はスマフォなので(スマフォの中のAI的存在)、スマフォの悲劇あるあるネタも面白い。お話は破滅する世界の中でのロードムービーになっていて、一家は1984年型のシボレーのワゴンで時にのんびりと、時に豪快に爆走する。

本作を見てて思うのは、日本のアニメでこういうファニーな顔のキャラクターって作れないのかなということだ。ぼくはごくごく限られたアニメしか見てないから知らないだけかもしれないけれど、特に女の子、どんなに等身大のキャラクターでもいわゆる美少女顔ばっかりじゃないかという気がする。例えば湯浅政明の『君と波に乗れたら』なんてもっと普通顔の主人公にした方が馴染みがいいと思うんだけど。女性の観客も美少女的なキャラクターの方が投影しやすいのかなあ(あれは位置付け的には少女マンガの延長なの?)。

本作はヒロインのアビ以下、見てもらえば分かる通り、実に等身大っぽいビジュアルだ。ほとんどただの1人もいわゆる美男美女キャラはいない。なんかね、こういう幅が合ってもいいと思うんだが..

お話は最後の方になるとお母さんがスーパーヒーローなみに無双になったり段々と日常感覚から離陸していき、シメは想像どおりに心地よい感じで収束していく。

 

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