2020書き漏らしいろいろ

 ダイナマイトどんどん

ストーリー:昭和25年、北九州小倉。対立するヤクザ組織の抗争に頭を痛めた警察は、それぞれの幹部を呼び、野球の試合で決着をつけるように命令する。勝てば盛り場のシマをものにできるのだ。加助(菅原文太)はチームリーダーになり、元プロ選手(フランキー堺)をコーチに、野球ができる組員を集めて練習をはじめる....

1978年、大映東映。監督は岡本喜八菅原文太の代表作、超絶ヒットしたシリーズ『仁義なき戦い』公開の数年後だ。本作も戦後混乱期が舞台のヤクザ集団劇、しかも文太主演だからイメージ的には重なる。企画自体、最初から文太主演で進んでいて、本人も乗り気で加わっていたらしい。

とはいえ、舞台は似ていても話のトーンはリアル志向で殺伐とした『仁義』シリーズとは全然違う。主人公の加助は純情で一本気で喧嘩っ早い、むかしながらの任侠映画のある種の主人公タイプだし、ライバルの豪腕ピッチャー銀次(北大路欣也)は、雇われの凄腕剣客風だ。警察署長(藤岡琢也)も無数のドラマで見覚えがあるようなキャラ。

岡本喜八作品の中で言うと、ドライなアクション+集団喜劇タイプに入る。伝説のアル中ピッチャー役の田中邦衛などは完全にギャグの演技だ。そこに分かりやすい極道の純情恋愛エピソードをかまし、全体は『がんばれベアーズ』タイプの、ダメなチームが成長していくストーリーで仕上げる。殴り込みで怪我した体で全力プレイ的な熱い展開もある。

けっこう力が入った企画だったらしいけれど、残念ながら興行的にはあまり成功しなかった。70年代後半だと新鮮味がなかったかもしれない。ラストに向けての大騒ぎといい、今の視線で見てしまうと、ちょっとドタドタしている。

 

太陽を盗んだ男

ストーリー:中学校教師の城戸(沢田研二)はひょうひょうと生きる男。でも自宅の団地の一室で、盗んだプルトニウムを原料に原子爆弾を完成させていた。原爆を使って日本政府を脅迫するのだ。交渉相手は警視庁の山下警部(菅原文太)だった。脅迫といっても特に思想も目的もない城戸は意味のない要求をくり出していく....

1979年公開、本作はたぶん、前年の『ダイナマイトどんどん』と比べるとだいぶ新しく見えたはずだ。このすぐ後から、日本映画も次世代のつくり手が目立ち始めて、SFやロックや漫画で言われてた〈ニューウェーブ〉めいたムーブメントになっていった。監督の長谷川和彦はその後映画を撮っていないけれど、彼らのリーダー的な存在だった人だ。

本作、まずはやっぱり熱い。いや主人公は醒めた男だ。でも『新幹線大爆破』と似た画面内の熱気は確実にある。関連の記事を見ると色々出ているように、撮影自体超アナーキーで(『新幹線』もなかなかだけど)、スタッフは逮捕覚悟で皇居や首都高や日本橋東急(今はない)あたりの市街地ロケを敢行し、カーアクションやスタントは今見ても「ぬうっ」となるところが結構ある。

主演沢田研二は当時ポップスター全盛期で、『TOKIO』あたりの衣装やステージに凝りまくってTVに出ていた頃だけど、本作では無理に格好良く撮っていない。ぬぼっとして生気がない教師で、妙に行動力がありつつ思想はない、独特の人物造形だ。旧世代代表が菅原文太で、こちらは割と型通りの無骨な刑事役。ただ独特なのは異常なまでの生命力を持ち、ヘリから落下しても何発銃弾を撃ち込まれても戦う戦闘力を持っている。ちょっとのことでは打破できない堅固な旧体制のシンボルみたいだ。

サスペンス要素もあれば、当時の青春映画らしい、行き先の見えないちょっと湿っぽいロマンチシズムもあるし、当時の先端メディア人=ラジオDJが大衆の欲望を可視化して、それが主人公と重なるあたりはこの時代の視点かもしれない。

画面の中の1970年代後半の東京、今と風景が続いているところもあれば、完全に昔風に見えるところもある。

 

■ミス・アメリカーナ

2020年。テイラー・スイフトのドキュメンタリーだ。当ブログでもいくつかミュージシャンの伝記やドキュメンタリーを取り上げてる、それと比べると彼女は際だってクリーンだ。子供の頃からほぼ音楽一筋で着々とキャリアを積み上げてきた彼女には、貧しさからの脱却も、家族との軋轢も、ドラッグやアルコールの問題も、ドロドロの私生活も、そんなものはない。

まあ、現役真っ只中だし、そういう方向の掘り下げが目的じゃないのだ。カニエ・ウエストにディスられた時もそうだったように、自分の意見を押し殺して可愛い女の子でいさせられた若手の時期、悪評=reputationまみれで疲弊した時期、カントリーの世界では特に難しい、女性のエンパワーメントや政治的な意見表明に踏み切った今、という〈成長と解放〉風に描かれる。

そんな彼女だけど、映像でうつされるステージの衣装は常に、やっぱりセクシーだ。そこはどんな風に感じているんだろう。自分のセクシーさをマスに対して表現する、彼女の中では、昔ながらの〈男性中心のエンタメの中で消費されるセクシーさ〉とは違うとらえかたがあるのかも知れない。

  

日本沈没2020 デビルマン・クライベイビー

2018、2020年、Netflixのオリジナルアニメシリーズ。どちらも監督は湯浅政明。『日本沈没』はもうすぐ劇場版公開だ。Netflixが日本でもオリジナルのアニメを作り始めた時、「製作委員会スタイルの日本の環境と比べると、潤沢に資金があるしタブーも少ないし、こりゃ黒船化するぞ」的意見がけっこうあった。

実情は知るよしもないけれど、この2作を見る限り、潤沢な予算を感じる緻密な作品という感じじゃなかった。オリジナル(漫画や旧作、小説)からの脚色の方向性は、市場を考えてのことだろうし、意識のアップデートぶりには抜けの良さもある。

げんなりしたのは動画のしょぼさだ。2作に共通するのはヒロインが陸上の短距離選手というところ。その共通点は面白いんだけど、デビルマンなんか特に、大事なはずの疾走シーンはほぼ真横から見ただけで妙に記号的なのだ。それ以外も視覚的快感が乏しかったなあ。

日本沈没」ではキャラクターのカリカチュアは抑え目で、そこはいいとして、「ここどこ?」レベルの70年代アニメを思わせる風景描写や、単純過ぎるCGモーションで走る車など、リアリズムに基づいたスケール感は正直感じなかった。1家族にフォーカスした物語だとしても、ディザスターものなら背後にそれを感じたい。

湯浅監督は漫画家みたいに自分の絵柄がある人じゃないが、基本的にシンプルな絵を漫画的誇張込みでダイナミックに動かして(音楽のリズムとのシンクロも得意だ)楽しませる。2作とも、その魅力もあまりなかった。

ちなみに彼の過去作品の『ケモノヅメ』(これもNetflixで見れる)は基本設定が『鬼滅の刃』に割と(かなり)似てます。雰囲気は全く違う大人の話だけど。

 

jiz-cranephile.hatenablog.com