ザ・ボーイズ(シーズン1、2)

 

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ストーリー:巨大企業ヴォート社。業務はスーパーヒーローのマネジメントだ。ヒーローたちは超人的な力を持ち、犯罪者や敵国軍と戦ったり、災害救助に駆けつける。その頂点がセブンと呼ばれる7人だ。リーダーは、スーパーマン然とした最強のヒーロー、ホームランダー。しかしその裏ではかれらの活動の犠牲になる人々がいた。その1人、ヒューイは目の前で恋人を殺され、おなじくヒーローに敵愾心をもやすブッチャーが率いる反ヴォートの組織〈ボーイズ〉に加わる・・・

amazon primeのコミック原作の配信ドラマだ。2018年にシーズン1:8話、2020年にシーズン2:8話が公開。コミックでは、ボーイズの中の「ふつうの人」枠ヒューイがサイモン・ペッグの顔で描かれている。実物のペッグは役柄より歳上すぎるのでドラマでは父親役になった。映像版のヒューイは雰囲気は若い頃のトム・ハンクスだ。(追記。コミックを紹介してる。長過ぎて見てないけど...)

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本作の構造はシンプルだ。悪の組織がある。わかりやすく資本主義の権化で、ひとびとがイメージする「悪の大企業」そのものだ。その犠牲になり、復讐する無力な一般市民(じっさいには結構違うけど)がいる。圧倒的な力の差があるし、直接に対決すると痛い目にあうけれど、ときには痛打を浴びせる。いろいろあってもチームは団結してるし、全員いいヤツだ。

その構造のなかに、今のアメリカ社会のアナロジーをちりばめて現代性を出し、複雑さもあたえている。じつは複雑なのは大企業ヴォートとヒーローたちの方で、彼らの方がずっと重層的な存在になっている。表では正義のヒーローを演じながら、自国第一主義、冷酷でエゴイスティックでありつつ、母の愛をいつも追い求め、でも愛を知らないから決して得られない...ホームランダーがその代表だ。

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とはいえ本作のヒーローはボーイズのリーダー、ブッチャーだ。組織に妻を奪われ復讐のために活動し続けている彼は、暴力的でモラルはないように見える。敵を殺すことにためらいがない。仲間にも乱暴だし言葉も汚い。でも本当の危機では決して仲間を見捨てないし、話が進むにつれてだんだんと人間性が描かれはじめる。無理矢理こじつけると、本作そのものがブッチャー的なのだ。

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本作、各回の最初にグラフィックなシーンやセリフがありますよ、と警告が出る。配信ドラマならではのゴア描写だ。赤く破裂する人体はもはやポップなまでに頻出し、それ以外の人体破壊シーンも毎回ある。ヒーロー=特殊能力をもった人々は簡単に敵の一般人を破壊する。わざと良識をさかなでするような悪趣味なシーンも満載だ。そんなルックの中で、国家と結託したビジネスが暴力を独占することや、性差別や人種差別やエンタメ業界の欺瞞や…への抵抗をストレートに描くのだ。

悪趣味や暴力性と正義感の同居。エピソードはそれなりにシニカルだけど、全体のストーリーはわりとまっすぐだ。本作のショーランナー(プロデューサー・脚本・監督を兼ねたような全体のリーダー)のエリック・クリプキが語る、ドラマと同時に配信されてるスタッフやキャストのインタビュー番組では、放送でありえないような汚い言葉を連発し(番組自体がそうなんだけど)、同時にストレートな反トランプのコメントや良識的なコメントもしている。

配信ドラマだとゴアと並んでセクシー描写もアリだけど、本作ははるかに抑えめ。『ゲームオブスローンズ(GOT)』の方がぜんぜん見せている。原作コミックはセクシー描写がずっと露骨らしい。ドラマ制作者は意識して映像としては見せないようにした。そして『GOT』でもそうだったみたいに、女性キャラで男性キャラと同じような戦いのシーンと強さを見せるようにしてバランスを少しよくした。このへんは最近のメジャーな映画のトレンドそのままだ。

シーズン2終盤の見せ場は悪役ヒロインと善玉ヒロインのバトルシーン。ここは少々笑える演出になっていて、セクハラ問題でちょっと危うくなった、でも強い女性が大好きなタランティーノの『デス・プルーフ』の集団リベンジシーン、さらにその元ネタの『ファスタープッシーキャット』へのオマージュっぽい。悪役ヒロインはレイシズムを戯画化したみたいなキャラで、「いつまでも安心して叩けるみんなの敵」ナチのエッセンスをまぶしてある。それを演じるのがユダヤ人女優というのも狙いすましてる。

見てる側からすると、そういったバランスで良識っぽさが漂って本作ならではのえぐみが薄れるようなことはなかった。性差別や性暴力の問題はむしろ正面からストーリーに組み込まれていくし、人種の問題はシーズン2でハイライトされ、テンションを上げたところできっちりと落とし前がつけられる。

まあ、通して見ていると、ヴォート社は巨大組織で情報網もあって,超人が何人もいるわりに、一般人のボーイズたちや内部の反乱者にわりに好き勝手やられて、うごきも隠れ家も把握しきれてないあたりが独特のゆるさにつながってる部分もある。でもこれがガチガチにされて動きがとれなかったらそもそもエンタメとして面白くないし、そこはいいのだ。悪趣味だし、基本的には「全員(わりと)悪人」モノだけど、善悪の境界がゆらぐ居心地悪い物語じゃなく、わりと爽快に楽しめるドラマだ。