アメリカン・ユートピア

youtu.be

<公式>

デヴィッド・バーンが率いるバンドのステージの映像化。2019年のNYでのライブだ。監督はスパイク・リー。ぼくにとっては昔からお世話になった2人のコラボだし、デヴィッド・バーン=ライブ映像といえばほぼ全員引き合いに出すライブ映画の名作、『ストップ・メイキング・センス』を思い出す。いそいそと見に行った。

デヴィッド・バーン。ふつうにビッグネームだと思うけど、「誰それ?」っていう人の方が圧倒的に多いのかな。彼のバンド、トーキング・ヘッズの曲は好きだった。”And She Was”なんて「ふっと脳内再生する曲」ランキング上位だ。最近は名前を見かけることもあまりなかったけれど、日本でいえば細野晴臣みたいに、不特定多数にとっては見えにくくなっていても、音楽界ではレジェンダリーな存在なんだろう。

f:id:Jiz-cranephile:20210605112424p:plain

ほかにバーンが細野晴臣的なのは、どんどん音楽的スタイルを変えていくところだ。もう一つ、いわゆるロックバンドの形からスタートして、ルーツミュージックのエッセンスをどんどん飲みこんだ、ミクスチャーというかパスティーシュ的な音楽をその時その時で作ってきているところだ。

バーンはスコットランド生まれ、NY育ちのひょろっとしたアート系でファンキーな雰囲気じゃない。でもアフリカやブラジルのリズムが好きで、見た目以上にグルーヴのある曲を聞かせてくるとこは初期から一貫している。本作で見せる/聞かせる最新のステージでもそこは同じだ。

映画は、ほぼステージの魅力を再現することに徹している。バーンのドキュメンタリーじゃないしドラマもない。ステージが始まって映画ははじまり、アンコールが終わると映画も終わる(オマケはあるけど)。あたりまえだけど、演っている音楽にハマれなければそんなに面白くはないだろう。

f:id:Jiz-cranephile:20210605112453p:plain

ただ、70歳の老人が率いるバンドなんてシニア向けのエンタメでしょう?と食わず嫌いだと少しもったいないかもしれない。さっき書いたみたいに曲はパーカッシブで懐メロ的な叙情はいっさいないし、ステージ演出はミニマルでありつつ曲ごとにドラマチックに雰囲気を変えてくるし、楽器を担いだミュージシャンたちは練り込まれた振り付けで自在に動く。ブラックミュージックのノリとは違う、異文化が取り入れたリズム独特の面白さもある。

ミュージシャンが楽器を持って歩き回るマーチングバンドの形式は、ある意味、ルーツミュージックを取り入れるバーンの指向とよくあっている。軍楽隊や鼓笛隊はともかく、アメリカのアフリカ系大学のマーチングバンドは一つの音楽的な伝統だそうだし(それを前面に出した2018年のビヨンセのステージ)、東欧にはロマの人々のブラスバンドもあるし、サンバだってパレードしながらの音楽だし、ニューオーリンズネイティブ・アメリカンのバンド、ワイルドマグノリアスの演奏もストリートで動きながら演奏できるスタイルだ。

youtu.be

そういうバンドと比べるとバーンのバンドは予告編でごらんのとおり、全員クールなグレイのスーツを着て、ミニマルなステージをバックに動き、土臭さはまったくない。ホーン隊がいないのもらしくなさかもしれない。キーボードとベース、ギターだけなのだ。多分、ステージングを自由に、演劇的にしたいという方が大きかったんじゃないか。なにかの引用というよりはね。

監督のスパイク・リーは時にメッセージを直接ぶつけるような映画も撮るし、職人っぽく洗練された語り口で仕上げる時もある。本作では自分の作家性はほぼ消して、ステージの見せ方に徹している。1曲をいろんな方向から撮っていてもカメラはほとんど映り込んでいない。何回かのショーを撮った映像の編集だろう。構成も振り付けもかっちり決まっているステージだから違う日の映像を繋いでも変じゃない。変にエモーショナルな手持ちカメラ的映像もなく、撮る側は決して前に出てこない。

ちなみにショーは政治的メッセージに満ちている。バーンは何度も「投票に行きましょうよみなさん」と呼びかける。映画の最後にもVOTE!というテロップが出る。2019年末のステージだから当然翌年の大統領選のことだ。途中ではジャネール・モネイの『Hell You Talmbout』を合唱する。そこだけ曲に歌い込まれている犠牲者とその家族の映像が差し込まれる。BLMに直結した曲を白人が多数派のバンドが歌う。居心地のいいパフォーマンスじゃない。「手軽に寄せてくるなよ」と言われかねない。バーンは曲の前に説明していたけれどもちろん批判覚悟で取り入れたんだろう。メッセージと一体になったショーだ。

youtu.be

そういう面はありつつもステージは十分にエンタメだ。バーンは歳を取って明らかに歌が上手くなり、声が響くようになった。バンドも上手く、それに独特の、不思議としかいいようのないダンス。これで音響にもう少し迫力があったらとは思うけど、ライブ的に楽しめた1本だった。

■写真は予告編から引用

 

 jiz-cranephile.hatenablog.com