行き止まりの世界に生まれて & ミッドナインティーズ

■行き止まりの世界に生まれて

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ストーリー:シカゴで撮影技師をしているビン・リューは、故郷のロックフォードで昔からのスケートボード仲間、ザックとキアーを主人公にドキュメンタリーを撮り始めた。撮影は12年間におよび、3人の環境も変わっていく。ザックは子供ができ、若いキアーも仕事につき...でもロックフォードは工業が衰退した荒涼とした街。3人の家族と過去に話は進んでいく....

中国系アメリカ人ビン・リューの初監督作品。インディーかつすごくパーソナルな作品だ。序盤はスケートボード文化の話かと思う。ボーダーたちが街中を自由に駆け回るのをカメラが追う。早朝なのか、そこそこの都会なのに道路には車も人もいなくて、ボーダーたちは広場の階段から歩道に、それから車道に駆け降りる。流れるようなカメラと編集で、Xスポーツものによくある大げさな映像じゃなくとても美しい。ビンが若い頃撮っていた映像も挟み込まれて、前半はそんな感じで続く。

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でも後半はがらっと変わる。自由に遊びまわっていたはずの街が、かれらを育てた家族とのつながりが、ボーダーたちを呪縛するのだ。ロックフォードは人口15万人、シカゴに近く、イリノイ州では大きい方の街。でも主要産業が衰退して全米の人口減少都市リストにも上がってくるし、危険な都市ランキング上位だ。街の風景はきれいだし建物だってそんなに荒れている風じゃないけれど典型的ラストベルトの都市なのだ。多分仕事だってあまりない。そんな街が舞台の物語だ。もちろん貧困率も高い・・・と書こうと思ったら、世帯年収の中央値は日本より高かった。なんかこれはこれで切ないな。

そして家族。物語が進むにつれて3人の共通点がわかってくる。子供の頃に父親や継父に暴力を受けていたのだ。暴力はそれぞれに影を落とす。あるものはいつの間にかそれを受け継いでしまう。あるものはそれを止めなかった母親を責める。あるものは「でもあれはしつけだったんだ」と亡くなった父を今でも愛している。

3人。つまり監督のビンも当事者だったのだ。はじめはカメラにほとんど映らず仲間たちを撮っていたビンは、友達の影の部分にずんずん踏み込んでいく。そしてあるところから自分も出演者になって、自分の過去にも踏み込んでいく。実はここが本作のドキュメンタリーとしての一番スリリングなところだ。

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ドキュメンタリー作家にはいろんなアプローチがある。ストーリーを持たずに被写体をひたすら撮影するところから始めるフレデリック・ワイズマン想田和弘マイケル・ムーアは自分がキャスター的に突撃し、自分のメッセージを大声で伝えるスタイルだ。『アクト・オブ・キリング』みたいに取材で対象を追い込んでいくのもある。NETFLIXとかで多いドキュメンタリーは作家性は表に出てこないで、インタビューや意味ありげなカットで物語をエディットしていく。

見ているぼくたちからすると、ドキュメンタリーならではのスリリングさは、題材そのものを別にすると2つある。1つは作り手が撮影対象にどんな影響を与えるかという点。それに2つ目は、作り手がどんな影響を受けるかという点だ。普通はこの点はほとんど見せない。作り手は物語の外にいるからだ。でも作り手も中にいる場合もある。対象と親密な関係だったり、すごく長い間対象を追っていたり。『監督失格』なんて完全に中に入り込んでいる。

本作は物語が進むにつれて作り手がどうしようもなく中に入り込んでいってしまう。そもそもビンが少年時代に初めてカメラを持ったところから作品ははじまって、対象も自分も歳を重ねて変わっていく。撮られている相手は友人だから見せる表情で、友人として話す。けっきょくは自分たちの物語なのだ。そして本当にパーソナルなところに踏み込むときに、作り手自身も対象になることを決める。

そこをちゃんと撮っているところがすごく誠実な印象をあたえるし、繊細なドキュメンタリーにしている。

■写真は予告編からの引用

 


■Mid90s

youtu.be

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ストーリー:LA育ちの13歳、スティービーは兄のイアン(ルーカス・ヘッジス)にいつも殴られている。スケートボードにはまった彼は近くのショップに入り浸る地元のボーダーのグループについていくようになる。はじめて見る年上の仲間たちの世界に急速に染まっていくスティービーだが....

 上と同じ、スケートボーダーのコミュティーの話。こっちは監督ジョナ・ヒルの自伝的フィクションだ。ぼくはボーダー文化の外の人だから実のところは知らないけれど、一種独特な、少年たちの居場所なんだね。人種や年齢の違いがあっても。2つの作品を見てそこはよく分かった。でもあくまで少年たちの世界だ。つまり男だけの世界。

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『行き止まりの世界に生まれて』でもちょっと触れられていたけれど、本作でも少年だけのグループにどうしてもある、「オトコであることの証明」みたいなシーンが何度も出てくる。というかそれがストーリーの中心といってもいい。

主演サニー・スリッチ(『聖なる鹿殺し』の少年)は実はプロスケートボーダーだけど、初めて乗れた子供を演じている。すでに物語を引っ張れる雰囲気を持ってるのがすごい。ただその分、顔が端正なのもあって、少し特別感がありすぎる気もした。

本作の大きな魅力であるという90年代LA文化のディティール再現は(音楽やファッションはもちろん路上のゴミまでこだわったらしいけど)残念ながらぼくはキャッチしきれなかった。

■写真は予告編からの引用

 

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