2022書き残し3作 〜シン・ウルトラマン アルプススタンドのはしのほう 浅草キッド〜

⬛︎シン・ウルトラマン

<公式>

庵野秀明は、独特なビジョンや造形への真摯さ、マニア濃度の高さと同時に、どこか哄笑的なナンセンスに近い笑いとパロディの香りがして、そこが僕にとっては近づきやすさになってる。ひょっとすると世代的なものかもしれない。色んな作品のオマージュや引用の散りばめは、後の世代のサンプリング的アプローチと似て見えるけれど、少し違う感じがする。

好きな作品だからといって、リスペクト全開で取り込むだけじゃなく、外側から突っ込む視線も共有していて、自作のテイストに取り入れる。半歩引いた批評性込みで表現せずにいられない、それは一種の含羞かもしれないし、80年代的な「なんでもおかしく」精神や大映テレビなんかをネタにしていた感じにダブって見えるかもしれない。

Amazon Primeでも見られる、庵野の大学時代の有名な特撮作品、『DAIKON FILM版 帰ってきたウルトラマン』。(学生の自主制作としては)圧倒的な作り込みや、例えば航空機の撮り方のうまさ、でも観客の没入を決して許さないウルトラマンの顔。この距離感だ。『シン・エヴァ』の父子の自己言及的バトルシーンもそうだ。

シン・ゴジラ』のパロディ的笑いは、石原さとみのキャラ造形とかあるものの、それほど濃くなかった。本作はだいぶ濃厚だ。表面的なコメディ演出のことじゃなく、当時の表現をいま見た時のおかしさ込みで再現している感じというのかな。肝はそこを「笑いどころですよー」と出すようなことはしないで、本気なのか分からない程度に描いているところだ。

冒頭のウルトラマンの回転具合からからいい。あと例えばよく電話シーンで「えっ○丁目で強盗!犯人は逃走中....!?」的な説明ゼリフがネタにされることがあるでしょう。これに似たことを西島秀俊にやらせている。たんに監督樋口真嗣のドラマ演出の下手さなのかもしれないけれど、同じネタを宮藤官九郎は『あまちゃん』でギャグとして松田翔平にやらせていた。本作ではそこを笑うか笑わないか観客に任せるくらいで見せる。

そんなこんなで本作が単独のドラマとして色んなウルトラマンリテラシーの観客たちにどう機能するのかは正直わからない。でも軽やかな気分で見られた。

 


⬛︎アルプススタンドのはしの方

<公式>

甲子園に出場した高校野球部をアルプススタンドの端っこでやる気なく応援する演劇部員女子2名とガリ勉女子1名、そこに元野球部男子1名がやってきて、盛り上がりに乗り切れない4人が見守る中、試合は進む。応援団の中心、ブラスバンド部の美人部長は成績もいいしエースの彼女だ。はしの方の4人ともそれぞれ挫折している。

原作は高校の演劇部顧問の先生が書いたオリジナル脚本。演劇の映画化なのもあって、舞台はスタンドの一角にほぼ固定、映画の時間と作品の時間もほぼ同じ。といいつつ映画では程よく切っているところもあって、いっとき舞台が変わるところで緊張感が高まったり、いい気分転換になっている。

僕が一番感じたのは、これいってもしょうがないんだけど、舞台になるスタンドが甲子園ぽくないことだ。制作側は使用を交渉したけれどダメだったそうだ。ロケ地は平塚球場。後ろに木々の梢が見えて、要するに大した高さじゃない、いかにも県営とか市営球場の雰囲気。でもむしろそれがあってる気がした。

原作の先生がいたのは兵庫県播磨市の高校で、生徒たちは関西弁だ。もちろん母校が甲子園に出場すれば一大事だ。でも高校から甲子園は車で1時間弱。生徒たちは家から三々五々行き、終わればマックかなんか寄って帰れる。そのくらいの参加具合なのだ。本作は関東のチーム。甲子園応援ともなると非日常の全校生徒ツアーになる。

映画は甲子園というよりは地区予選の決勝とかの雰囲気だ(お話上はあくまで甲子園)。これが実物で撮ったらどんな雰囲気になるだろう。もっとシンボリックで巨大な舞台の片隅に4人はいて、彼らが見守る同級生ははるか下の栄光のステージ上にいる。応援団席でも中心とはしの方は随分距離があるだろう。このささやかな心の変化の舞台としてはやっぱり地方球場は合ってる気がした。

 


⬛︎浅草キッド

<公式>

柳楽優弥という役者はこの世代では群を抜いて顔力がある。本作では顔力を若干封じて、ビートたけしのなりきり芝居を見せる。さすがに目つきが全然違うが、たけしだって若い時はそうとう鋭い顔立ちだったしね。フライデー事件の頃のたけしの、何をやらかすか分からないオーラは柳楽にも確かにある。

本作はたけしの浅草芸人時代と、師匠深見千三郎との絆の物語。絵に描いたような人情物で、たけしも千三郎も観客の期待を裏切るようなことはしない。格好よく、芸に真剣に向き合って、弟子は売れっ子になってもちゃんと師匠の元に顔を出し、若い頃そのままの師匠と弟子になり切ってみせる、美しき芸人像だ。

まあそういう映画だからね。作り手がひたすら憧れた先輩と、彼の大事な師匠を描くんだから。監督の劇団ひとりもそこは隠さない。自覚的に綺麗な話にしている。見ていてゴリっとしたものはあまりないけれど、ちゃんと時代の移り変わりと消えゆくものの物語になっているし、古い時代の東京の芸人の格好良さが描かれていて後味はいい。原作にあったのかどうか、歌手を目指していたストリッパーのエピソードもいい。門脇麦が『あのこは貴族』でのお嬢様と違う側を見せる。

 

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