シカゴ7裁判

 

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ストーリー:1968年8月、シカゴ民主党大会で戦争反対を訴えようと集まった学生や活動家の団体と警察隊が衝突する。翌年、政権を取ったニクソンは集まっていた各団体のリーダーたち7人とブラックパンサーのリーダーを騒乱を起こした共謀罪で起訴する。それは政権の意向を受けた判事による無理筋の裁判だった。絶望的に不利な中、審理が始まる.....

アカデミー賞作品賞助演男優賞・撮影賞などノミネート。監督・脚本のアーロン・ソーキンは『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』の脚本家だ。「アメリカではダメな政治は4年に1回革命で転覆できるんだ」とクライマックスで言わせる、観客の政治参加を鼓舞するような本作の公開は2020年9月。大統領選挙直前で、監督自身も最高のタイミングになった、と言っている。

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本作は別にトランプ政権への危機感で企画されたわけじゃなく、ソーキンは2007年には脚本を書いていて、伸びに伸びてこのタイミングになった。初めはスピルバーグ監督で進んでいたらしい。この題材は同じニクソン政権の不正と戦うメディアを実話ベースで描いた『ペンタゴン・ペーパーズ』と兄弟みたいなものだし、その後のニクソンの行く末を見ればポジティブな結果は想像できる。スピルバーグ向きの物語という気はする。

ここ何年かで、アメリカは(だけじゃないけどね、全然)ここで描かれている主人公たちみたいな存在に冷淡で反感を持つ人たちが相当数いることがはっきり見えてしまった。本作にも色んな批判は来ているそうだし、「そういう人たちがこれを見ないだろうというのもわかる」「でもメッセージの前に、まず映画として誰でも楽しめる物語・語り口を目指したんだ」と、監督はまっとうなことを言っている。

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ソーキンは監督2作目。だけど初期作的な素朴な感じはまったくない。法廷劇は絵面が地味で、頭脳ゲーム風・段々と暴かれる人間ドラマ、とかになりがちだけど、本作はセリフもカットの切り替わりも詰め気味でテンポは早く、登場人物みんなキャラクターが立っていて、ヒロイックでいて欲しい人は気持ちよくヒロイック、すごく見やすいエンターティメントだ。

ちょっとアナーキーな活動家のアビー(サシャ・バロン・コーエン)はトリックスター風のコメディアンでありつつ必要なところでは教養に裏打ちされた重みのあるセリフも吐ける、格好いいキャラだ。もう一人の優等生活動家トム(エディ・レッドメイン)の正義感も、いかにも人権派弁護士風のクンスラー、それに絵に描いたような悪役老人の裁判官もはまっている。

あと敵である検事のシュルツ(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)がすごくいい。検事は実際よりシンパシーを持てるキャラクターにチューンしてあって、敵役だけどいい具合にバランスが取れている。そこはかとなく憎めない感じがレヴィットにぴったり合う。政府側にもう一人そんな憎めないキャラクター(FBIの美人潜入捜査官)を置いている。

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法廷シーンが重要なので、監督は教会をイメージして法廷セットをよりドラマチックな空間にした。クラシックで壮麗で、いつも被告の背後から外の光が差し込んで彼らの後光みたいになっている。重々しさもありつつ、どこか開放感があって希望のニュアンスがある空間だ。実際の法廷はアメリカとはいえ、割とフラットな照明の淡々とした空間なんじゃないか。

アメリカは定期的にこういう社会正義を前面に出したエンターティメントが出てくる。大作とまでは行かなくても『ペンタゴン・ペーパーズ』だって『デトロイト』だってそれなりの規模だ。ぼくは結構この手のを見てる。醒めた言い方をすれば、こういういわば良心的な作品を見ることで観客が何かなすわけじゃない。むしろ手軽に倫理的に満足するだけとも言える。「考えさせられる」的な一言でおしまい。売上にささやかに貢献し、ジャンルを支えるくらいだ。それでもね。娯楽の選択肢としてこういうジャンルがしっかりあるのは健全だなあとは思う。

 ■写真は予告編からの引用

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