女王陛下のお気に入り

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<公式>

ストーリー:18世紀初頭のイングランド。フランスとの戦争中の王女アン(オリヴィア・コールマン)は心身ともに不安定。宮殿に呼び寄せた幼馴染みのサラ(レイチェル・ワイズ)に支えられ、そして支配されていた。そこへ貧しい身なりの女性があらわれる。没落した貴族の娘、アビゲイルエマ・ストーン)だった。アビゲイルはサラの血縁で、サラに気に入られてすぐに女官になる。けれど彼女の野心は女官どまりになることじゃなかった。常人を越えた行動力の彼女のターゲットはサラに寵愛をそそぐアン王女そのひとだった....

舞台は、1700年代のイングランド王室。日本で言うと五代目将軍徳川綱吉から、ぐっと知名度が低い六代目家宣のあたりだ。本作、「イギリスの大奥」とも言われるけれど、日本の元祖「大奥」の同時代といっていいね。当時のイングランドはフランス・スペインとの戦争中だ。すでに議会があって、トーリー党ホイッグ党の二大政党制になっている。党が政策を提言して議会で争い、最後は国王が決めるスタイルみたいだ。

本作みたいな、歴史劇・時代劇をちょっと異端なセンスの監督がとる作品、『恋におちたシェイクスピア』あたりがすぐに思い浮かぶし、日本でいえば最新の『座頭市』や『十三人の刺客』がそんな感じだろうか。本作は同じイギリスの近世・中世をテーマにしてたピーター・グリーナウェイの作品群よりはずっとエンターテイメントよりで、かつフィクションの時代劇というより実話ベースの歴史劇だ。

主な登場人物は実在だし、3人の女性の関係も基本的には歴史として語り継がれているとおり。女王は若い頃からの盟友サラと緊密な関係で、その友人は夫が軍人だから戦争推進派で、彼女がつれてきた女性の召使いに女王の心はだんだん惹かれていき、やがて....という、じつにドラマに使いやすい関係性だ。

映画ではより面白くエッジーでビターに仕上げるためにキャラクターを調整する。女王は意志薄弱で愚かで依存心が強い、幼児的なおばさんとして登場する。サラは凛々しくて攻撃性が強くて、政治的なセンスもある女性。そしてアビゲイルは、歴史書では、冷たいサラの穴を埋めるようなほんわかしたキャラクターらしいが、本作の彼女は「えっ」というような、軽々とモラルの一線を越えるタイプだ。彼女が成り上がっていくこのお話は、典型的なピカレスクロマンになっている。

エマ・ストーンはそもそもわりと攻撃的なキャラクターが得意で、『バードマン』の娘役にしても、『LaLaLand』のヒロインにしても、未見だけど『バトルオブザセクシーズ』のテニスプレイヤーにしても、とにかく包容力とかよりも強さが目立つ女性だ。本作では作中唯一のアメリカ人女優として、たしかにイギリス貴族感はほとんどなくて、宮殿のなかで異物感たっぷりに存在している。

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本作はイギリス・アイルランドアメリカ合作で、アメリカFox Searchlight配給の映画。で、近年のハリウッドの文法そのままに女性がひたすら強い。アビゲイルは成り上がるために、宮殿の色恋沙汰にも自分から身を投じていく。そのときのセックスの主導権ぶりもそうとうな物なのだ。人目がない林で貴族の男に襲われるシーンでも、ふつう女性にとって最終的な制約になりやすい、肉体的な体力差・攻撃力でも、まったくまけていない描写になっている。合意のセックスシーンでも男からすると「こりゃひどい」というようなあしらい方を見せる。

サラはもっとヒロイックに強い感じで、どん底に落ちてからはさらに迫力が増すし、愚鈍で弱々しかったアン王女も途中からどんどん王の風格を身につけていく。そんなヒロインの三角バトルの周囲で、男たちは基本的に間抜けであり、どことなく弱々しく、衛星のごとくぐるぐると回るだけの存在だ。ペドロ・アルモドヴァルの作品みたいだな。

さて、本作の主要ロケ地は本物の歴史的邸宅、ハットフィールドハウス。映画ロケに積極的に貸し出していて、『パディントン』だの『ワンダーウーマン』だの、はては『47RONIN』なんていうぜんぜん歴史物じゃない作品でも使われている。そのほか有名なハンプトンコートや、ダンソンハウスという歴史遺産でロケしている。

本作はじつはあまり制作予算がなくて(約16億円くらい)、評価がすごく高い衣装も、本物を揃えることなんかできずに、古着とかを集めてリメイクし、しかもシーンが終わるとばらして別の衣装に仕立て直したりしていたくらいで、だから実在の建物ロケができたのは、画面のリッチさを出すためにはすごく助かっただろう。カメラでは照明はほとんど使わずに太陽光と、夜のシーンならろうそくそのものを光源にしていたりしたらしい。

まぁでも面白かったな。3人の戦いがしめっぽくなく気持ちいいし、ちょっとパンキッシュな雰囲気あるし(宮廷の女性が「f◯◯k!」と叫んだり、舞踏会で超今風のダンスを踊ったり)、エロ展開も遠慮なく打ち込んでくるし。

ちなみにどうでもいい話だけど、イギリスの庭園として有名な「風景式庭園」という、今の公園デザインの祖型みたいなタイプがあらわれるのが18世紀の中盤くらいのことで、それまではイタリア、フランス庭園の亜流ばっかりだった。つまり本作の時代は、まだ牧草地風の景色や渋い廃墟を見せる風景式庭園はなかったのだ。

■写真は予告編からの引用

 

 

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