ファイティング・ダディ 怒りの除雪車

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<予告編>

ストーリー:ニルス(ステラン・スカルスガルド)はノルウェイの山地で除雪が仕事。最近市民栄誉賞的なものも受賞し、よき市民としてよき父として生きてきた。ところが息子がある日凍死体で発見される。警察はドラッグ中毒だという。そんなはずはない。息子の友人の告白でドラッグを扱う組織が犯人だと知ったニルスは復讐に立つ。ところがそれが2つの闇組織の対立の引き金となり.....

ノルウェーの冬は寒い。行ったことないが、たぶん猛烈に寒い。特に内陸は1月になると最高でも-10℃程度。前にいったストックホルムヘルシンキはそこまで寒くなかった。海に近いし、そもそも暖冬だったのだ。だがここは違う。そんな寒さが風景を満たしたアクションムービーだ。

雪の山地、地域を知りつくした男の戦い。『ウインド・リバー』を思い出す。本作も冬が舞台。なんといっても怒りの除雪車だからね。夏だと出番がない。主人公は豊富な武器を持ち、息子を殺した組織に復讐していく。スカルスガルド、スウェーデンの名優で、どっしりとした「北方の伯父」的存在感だ。当ブログだと『奇跡の海』『ニンフォマニアック』の助演、どっちもエキセントリックなヒロインを受け止める役だ。対立する組織の老ボス役はブルーノ・ガンツ。ドイツの俳優で僕はベンダースの作品で覚えた。

ともかく、ヒーローのスカルスガルド、体は大きいけれど、アクションスタータイプじゃない。ダディとはいえそこそこの老人感もある。しかし本作での彼は驚異的な強さを見せ、暴力のプロのはずの組織のメンバーを圧倒している。ここが味わいなんだけど、同時に「?」となるとこでもあるのだ。彼は異邦人で、兄貴は闇組織にいたらしく、何かいわくありげではある。でも「元特殊部隊」的なアレはないし、近年は実直な除雪作業員だったはずなのだ。

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あじつは本作、あまり真面目にそのあたりを突っ込む映画じゃない。メンバーを殺された地元ノルウェーの組織が間違って対立組織のメンバーを殺したところから、セルビア系マフィアとの対立が始まるのだ。一気に殺人のテンポがよくなり、リズミカルに次の殺人、そのつぎの殺人、と畳み掛けるようになる。すべては大して重々しく扱われない。だれかが死ぬとそのたびに神妙な感じで名前と所属組織のマークが出るのだが、どう見ても若干笑い含みのトーンなのだ。

ごつい男たちが寒々しい風景のなか、どこかこっけいに振る舞う、このおかしみは、同じ北欧だからというんじゃないけれど、アキ・カウリスマキをちょっと感じさせる。だとかユーゴのエミール・クストリッツァ(『アンダーグラウンド』とかね)も少し通じる。そんなトーンのギャング映画だと思って欲しい。舞台が雪山と整然とした北欧都市、クールやナチュラルな北欧インテリアなので、犯罪映画なのに独特の清潔感とあいまって不思議だ。

ロケ地は、山間部はBeitostølenという町だそうだ。都市部はオスロ。じっさいの距離は200km以上ある。そこそこの距離だ。山地から都市にはいるところで、印象的な風景が何度か写る。雪の平原から一直線に道路がつながって、向こうの方にモダンな高層ビルが並んでるのだ。こんな風景、ほんとにあるの?

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…じつはこれはCG。モダンな都市景観はオスロの海に面したBjørvika地区あたりだと思う。つまり海からの風景なのだ。東京だってそうでしょう。海側にはけっこうぎりぎりまで都心部が迫ってる。でも山側は郊外になる。基本はそういうものだ。オスロも航空写真で見るかぎりやっぱり同じに見える。本作では、なんだろう、超現実感を出したくて、あえて(ノルウェイ人にはすぐ分かりそうだけど)架空の風景を作ったんだろうか。

ちなみに、本作は同じ監督がアメリカでリメイクした。主演はリーアム・ニーソン。未見だけど予告編を見ると、若干違った味わいがありそうな気もしないでもない。

■写真は予告編からの引用

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