US アス

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ストーリー:アデレードルピタ・ニョンゴ)は夫のゲイブ、娘ゾーラ、息子ジェイソンの4人で両親が持っていたサマーハウスに来た。友人一家のいるサンタクルーズのビーチへ行くのだがアデレードは嫌な記憶が甦る。何か嫌なことが起こる.....それは起きた。赤い服を着た4人が強引に家に侵入してきたのだ。かれらはハサミで武装している。それより恐ろしいのは彼ら4人はアデレードとその家族にそっくりだった.....

Get Out』につづくジョーダン・ピール監督作品。作品のトーンはよく似ている。シンメトリカルで端正な画面、ホラー風ではあるんだけど面白怖い雰囲気、あとなんだろう、特有の奇妙さがあるような気がする。特に本作序盤の、「ことが起きる前」の不吉さをかもしだすシーンで「なんか奇妙だなあ」と思った。いろんなホラーや変わった映画のパッチワークみたいに感じたのかもしれない。

本作は「地下世界」がだいじなモチーフだ。物語の前に、字幕でアメリカ国内に延々とある見捨てられた地下空間のことが語られる。この物語の中では地上の世界の付け足しじゃない、地下の世界とその住人たちが存在するのだ。こういう想像って昔からある。民話や説話にもあるだろうし、SFの古典でいえばジュール・ヴェルヌ『地底世界』が有名だし、SF映画創世記の古典『メトロポリス』は資産階級が地上の高層ビルで暮らし、貧しい労働者が地下ですごす、というちょっと本作に近い世界観だ。

じっさいの地下空間と地下の住人が話題になったこともある。NYでは地下鉄廃墟やさらにその下に掘り下げられた地下空間に大人数のホームレスが暮らしていた...というドキュメンタリー『モグラびと』はぼくも買った。9.11以降急速に減ったそうだけど、今でもいるみたいだ(地下冒険家もいるらしい!)。『Mole People(モグラ人)』という古い映画もある。

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黒人のカルチャーと地下世界の想像でいうと、小説『地下鉄道』を思い出した。奴隷制時代のアメリカに延長何千キロの地下鉄道があって、南部の脱走奴隷たちを北部に運んでいるというストーリーだ。

日本でも、たとえば第二次世界大戦中の空襲対策で各地に作られた地下施設、三浦半島にも最近までけっこう大規模で入れるところがあった(もう入口が塞がれたらしいけれど...)。昔に行ったチェコの小さい町は、近世に少しずつ掘り進めて、町全体が地下道でつながっていて、外敵の襲撃を受けると地下ネットワークで避難できるようになっていた。

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本作、ここまでは書いてOKだと思うけれど、主人公一家のドッペルゲンガーたちが家にあらわれる。だけど髪型や雰囲気はちがっているから「鏡像」という感じじゃない。生き別れた双生児みたいなものだろうか (双子も出てくるしね)。このドッペルゲンガーは何の象徴....? という映画だ。ぼくたちは主人公側かもしれないけれど、ちょっとした何かでドッペルゲンガー側になっていたかも、いやなってるのかもしれない。

そのあたりの境界のあいまいさが本作のキモだろう。本作は構造としてはゾンビ物を借りている。人間に似たモンスターが現れる。でも無敵というわけじゃなく、アッパーミドルの主人公一家も反撃する。良識派で銃も武器も家にない。でもその反撃シーンが「え、モンスターってどっち?」とぎょっとするように見えてくるのだ。

一家の子役たちもじつにくせがあっていい。2人とも妙に老成した表情をときどき見せてくる。息子ジェイソン役の子なんてサミー・ソーサにそっくりだ。この子は序盤からいつも仮面をつけているなど、すごく意味ありげに出てきて、ドッペルゲンガーと対面したときも、1人だけ他の家族とちがう振舞をする。なんでかれだけが.....そこのオチはなかった気がする。謎だ。

■写真は予告編からの引用

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