空と戦闘機と突き抜けた情熱 〜 トップガン・マーヴェリック & 地獄の天使

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本作、2022年の公開作の中では邦画アニメとかを合わせても相当上位に行きそうだ。解説動画の乱立ぶりや熱さも相当な感じで、本作を愛するのはけっして86年の旧作ファンや長年のトム・クルーズファンだけじゃない。

車もバイクもスポーツモデルに熱い眼差しを向けるのは中高年メイン、という日本で、同じように男子が「格好いいもの」の1つに入れていた戦闘機も昔ほどかれらの心をときめかさない(なぜか鉄道愛はすたれないが)。男子のハートに連綿と受け継がれるメカ愛は、たぶん戦闘アニメのロボットが受け止めているだろう。そんな中で「戦闘機って格好いいんだよ!!」と、ほぼそれだけを描いている本作が受けまくっているというのが正直おどろきなのだ。

誰でもわかる格好良さ、視覚的快感(と飲み込みやすいストーリー)をきちんと映像化したトム・クルーズと製作者たちの情熱とビジョンが素晴らしかったんだろう。ジェット戦闘機のアクロバティックな動きも、信じがたい操縦テクニックも実機で再現して、俳優をその環境において撮り切る。クリストファー・ノーランが『ダンケルク』でIMAXカメラを無理やり飛行機に押し込んで撮っていた空中映像を、本作では同じIMAXでもデジタル用のより小さい機材をふんだんに使って空中シーンは基本的に全て実写で見せる。

「もうこんな映像、撮れないだろう」評論家たちもいう。戦闘機アクションが物語として意味をなす時代の終焉も近いし、実写で困難な映像を撮ること自体、物好きの趣味と捉えられて、作り手の強烈な意思と情熱と実行力頼りの絶滅危惧種になっていき、そもそも単品の実写大作が衰退しつつある、そんな時代だ、とね。僕たちは20年くらい後にも「色褪せないねー」と言いながら本作を見返すのかもしれない。

「戦闘機って格好いいんだよ!!」 同じことを熱く思い、莫大な情熱と資金を注ぎ込んで強烈な映像を撮ろうとした作り手はこれまでもいた。そんな作り手の始祖で、かつトムと比べても最大級の突き抜け具合なのが、ハワード・ヒューズだ。彼の制作・監督作品が1930年公開の『地獄の天使』。

原題はHell's Angels、ハーレーに乗った長髪・ヒゲ・サングラス&レザーベストのいかつい叔父たちのイメージだが、第一次世界大戦中の英国空軍パイロットを主人公にした戦記物だ。第一次大戦終戦から10年ちょっとの時期に、イギリス、ドイツの当時の戦闘機を大量に買い集め、パイロットを90人近く動員し、荒野に広大なセットを設営して、実機の空中戦シーンを撮り切った。

Amazon Primeで普通に見られるので、『トップガン』が格好いいと思ったらおすすめだ。すげえすげえと言われる実機のコックピットシーン、90年前のこの映画で完全に実現されている。背景や光の合成は到底今みたいにできない時代、リアルな映像は実機にカメラを載せて撮るしかない。↓これ、同じでしょう。もちろんフィルムカメラ。よく搭載できたと思う。

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scene from "Hell's Angels"


これ以外も夜間にドイツ軍の飛行船がロンドン爆撃に来襲し、英国軍が迎撃するシーンがある。飛行船は模型でも迎撃機は実機だろう。夜間だから光量が少ない中で嘘くさくなく見せている。飛行船の爆発墜落シーンもリアルで、有名なヒンデンブルク号墜落シーンを思わせる。墜落して水素が炎上する中でトラス式フレームが崩れていくシーン、事件映像を参考にしたのかと思ったけれど、ヒンデンブルクの墜落は1937年なのだ。

戦闘に使う機材は英国軍が当時の主力機S.E.5a、ドイツ軍は傑作機フォッカーDVⅡ。実機を本物の戦闘機パイロットがバリバリに飛ばしているのは『トップガン』と全く同じだ。空中戦ではドイツ軍の戦術をちゃんと再現して上空から1機ずつ急降下して敵機に襲いかかかる。当時の戦闘機は最高時速200kmそこそこで、超音速のF-18とは比較にならないけれど、その分大量の戦闘機が入り乱れて、クイックな動きで敵の背後を狙ったり、映像のダイナミックさは90年前の古典を見るときのそれじゃない。あと音声がつくトーキー映画の草創期なのに、飛行機のエンジン音がすごくいい(トーキーで公開するために音声なしで一度完成していたのに全部撮り直したそうだ)。ハワード・ヒューズは20世紀最大級の富豪の1人で、財産を父から受け継いだ彼は飛行機にのめり込み、映画を愛し、この大作を作り上げた。彼の人生を描いたマーチン・スコセッシの『アビエイター』でも本作の撮影シーンがある。広大な荒野から戦闘機が離陸するシーンは、どう見てもヨーロッパ戦線の風景じゃないけれど、そんなことはどうでもいいのだ。ヒューズの飛行機愛はその後も加速し、超大型飛行艇を作ったり、航空会社を設立したりしていった。

彼は若い頃に大富豪御曹司の身分を隠して航空会社に入り操縦をマスターして、本作の撮影中には自分も飛行機を飛ばして墜落し、後遺症を負ったという。『トップガン』ラストで口角の上がったトムが第二次大戦の戦闘機P-51と戯れる。機体がトムの私物なのは有名で、本人が操縦して楽しんでいるんだろう。『バリー・シール』で運び屋操縦士を演じていたトムは自分で操縦していた。おなじなんだよね。おなじ「飛行機&映画バカ」という失われていくタイプの人種なのだ。

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